気持ちも体もすべてぶつけて
2012年01月03日 13時23分
「オールジャパン2012」も第2日目を終わり、男女ベスト16が決まりました。第3日目の今日は、女子のトップリーグであるWJBLや社会人1位の秋田銀行が登場し、ベスト8をかけて戦います。大会も一気にヒートアップの様相を呈するところでしょう。
2日前、元日の話になりますが、サッカーの天皇杯でFC東京が優勝しました。J2のチームが天皇杯を下賜されたのは初めてだそうです。サッカー同様、バスケットでも下剋上があるのでしょうか。一発勝負のトーナメントは何が起こるかわかりません。ちょっとしたボタンの掛け違いで最後まで流れを取り戻せず、負けるチームが出てくるかもしれません。「勢い」という目には見えない力が作用することもあります。
WJBL2位のトヨタ自動車アンテロープスに挑むのは社会人2位の山形銀行です。思えば、昨年の「オールジャパン2011」ではこの山形銀行が旋風を巻き起こしました。当時Wリーグ8位だった日立ハイテク クーガーズを破っての8強入り。社会人チームがシード権を手に入れたのです。今年は残念ながら社会人選手権で2位に甘んじてしまったため、3回戦でWリーグ2位のトヨタ自動車と対戦することになってしまいました。それでもチームは変わったとキャプテンの高橋清香選手は言います。
「ヘッドコーチは変わりましたが、メンバー的には昨年と大きく変わっていないし、ヘッドコーチもあまり細かなことを言わずに『自分たちで考えるようにしなさい』というので、今年のチームは昨年よりもみんなでコミュニケーションを取りながらやれていると思います」
昨年のヘッドコーチである山田かがり・現アイシン・エイ・ダブリュ ウイングスコーチの教えをベースにしながら、福島雅人ヘッドコーチの知恵が加わり、選手同士の絆が強まり、ベスト16に進んできたというわけです。
「トヨタ自動車はWリーグの2位ということなので、ひるむことなく、気持ちも体もすべてでぶつかっていきたいと思います。もちろん昨年と同じように打ち破りたいという気持ちを強く持って臨みたいと思います」
また、本日行われる8試合のうちで最注目カードとも言えるのが、高校選手権覇者の神奈川県立金沢総合高等学校と、社会人1位の秋田銀行の一戦でしょう。県立金沢総合高は昨日、社会人選手権3位で、今大会には九州ブロック代表として出場している鶴屋百貨店を【88-74】で下しての3回戦進出。しかも終盤、スタメンを下げるほどの力を持っています。エースの宮澤夕貴選手は昨日の試合後にこう言っていました。
「チームで守れたことと、オフェンスでは相手の身長が低かったので、自分を含めて、結構インサイドを突くことができたことが勝因だったと思います。ただ明日の秋田銀行戦に勝たなければ次の試合はないので、目標はベスト8ですし、ぜひ勝ちたいです。そして今大会が星澤先生の最後なので(星澤コーチは今年度で定年退職されます)、そういう思いも込めて、見ている人に感動を与えられるようなプレイをしたいです」
秋田銀行は鶴屋百貨店と比べると、180センチオーバーの選手が2人いるなど、全体的に大きいチームです。昨日のようにインサイドでイニシアチブを取ることは難しいでしょう。
「秋田銀行は身長が高いですけど、鶴屋百貨店戦のように強気で攻めて、寄ってきたらアウトサイドにパスというように、チームの軸となって戦っていきたいです」
今年度の高校女子バスケット界を牽引していた2大巨頭の1人、宮澤夕貴選手が社会人を相手にどんなプレイを見せてくれるのか。そして彼女の周りの選手がどんな援護射撃をするのか。やはりこの試合は注目です。
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点を線にした九州電力の逆襲
2012年01月02日 22時52分
負けた悔しさというのは年齢に関係なく、勝負の世界に生きるものであれば、誰もが思うものです。昨年の「オールジャパン2011」の1回戦、社会人1位として出場した九州電力は関東ブロックを勝ち抜いてきたクラブチーム、千葉エクスドリームスに負けてしまいました。その悔しさをバネにして、今日、大学5位の日本大学を破り、3回戦進出を決めました。
「やることは昨年と変わっていませんので、メンタル面を特に強化してきました。昨年は油断があったというよりは、自分たちのプレイが何も出せず、地に足がついていない状態で終わってしまったので、今年はしっかりと地に足をつけて、自分たちのバスケットを表現しようという意識づけだけをしてきました」
今年から名実ともにコーチングスタッフに入り、実質ゲームを指揮している山口健太郎アシスタントコーチはそう言います。
しかし一言でメンタル面を変えるといってもそう簡単なものではありません。9月に行われた「平成23年度全日本実業団バスケットボール競技大会」では1回戦で優勝した日本無線に敗れています。この大会は、上位6チームが11月に行われた「東日本大震災被災地復興支援 第7回全日本社会人バスケットボール選手権大会(以下、社会人選手権)への出場権が与えられる大会で、その社会人選手権の上位2チームは、このオールジャパン2012に出場することができる大会です。つまり九州電力はオールジャパンに続く第一歩で敗れているのです(その後、「第63回全九州総合バスケットボール選手権大会」で優勝し、今大会への切符を手にしています)。
司令塔の中川直之選手は社会人選手権を逃したことが、チームのターニングポイントになったと言います。
「自分たちは勝ちたい気持ちでやっているんです。勝ちたい気持ちでやっているのに社会人選手権を逃したというか、僕たちのカテゴリーの全国大会で、1回戦で負けてしまった。3冠を目指そうと言っていたのに、その結果だったので『何かおかしいんじゃないか』、『ちゃんとやらないんだったら、バスケットもやめよう』という話もしてきました。でもそこで原点に立ち返れたといいますか、何のためにバスケットをやっているのか、誰のためにバスケットをやっているのかを考え直して、練習に取り組みだしたんです。やはりメンタル的な部分がしっかりしていないと、どんな練習をしても勝敗を決するところのブラッシュアップにまではいきません。もっといえば、すべての練習がおざなりになって、オールジャパンの舞台に立てるようなレベルに達することはできないので、そこをしっかりやっていこうという話をしてきました」
メンタル的な部分に加えて、今年は酒井祐典という慶應義塾大学出身の有望なルーキーが入ってきました。それは大きなプラス材料でした。しかし、中川選手は言います。
「それが点になってしまうと意味がないんです。組織として結集しないと強くなれないし、格上の体力も、エネルギーも、運動量も勝る大学生には勝てるはずがないので、いかにメンバーを掛け合わせて、強いものを作りだしていくか。それを常にみんなでイメージして、共有するようにしました」
選手は当然、九州電力の社員ということで平日には仕事があります。12月に入っての平日練習では10人が集まらないこともしばしばあったそうです。ルーキー・酒井選手は当初、仕事とバスケットの両立で本当に悩んだと言います。
「正直、大学のときに勉強とバスケットを両立してきた自信があったので、社会人になったばかりのときは、仕事とバスケットも両立できるだろうという甘い考えを持っていたんです。でも実際にやってみたら、仕事量の多さや、不慣れな1年目ということもあって、その環境の違いに本当に悩みました。練習も週に1回しかできないし、夏の大会でも不甲斐ない結果を残してしまったので、自分のなかで『自分のバスケットって何や?』って考えるほどでした。でもいろんな先輩に相談して、少しずつ自分の中で解決して、なんとか今大会は調整できて、目標である3回戦に進出できてよかったと思っています」
少なからず、 企業戦士は誰でも仕事とバスケットの両立に悩みを抱えていることでしょう。九州電力の選手もまた、本当にさまざまな思いを抱いて、それでもバスケットが好きだ、勝ちたいんだという気持ちで1つにまとまり、昨年の結果を上回る3回戦進出を果たしたわけです。
次の対戦相手はJBLで1位のトヨタ自動車アルバルクです。元アイシンシーホースの選手でもあった山口アシスタントコーチはその試合に向けて、こう言っています。
「特別なことはできないので、九州電力のバスケットをしっかりやって、選手たちにはJBLに対して何が通用し、何が通用しないのかを経験してもらいたいと思います。そういった経験をする場はオールジャパンしかありませんし、それが次の成長につながると思うからです」
トヨタ自動車には日本代表クラスが何人もいます。そんなトヨタ自動車に対してどこまで自分たちのバスケットをやり通すことができるか。もちろん負けるつもりでプレイする選手は誰もいないでしょう。1、2回戦のように思いきり九州電力のプレイを見せてほしいと思います。
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情熱、いまだ衰えず――笑顔の最年長選手
2012年01月02日 17時53分
バスケットボールは「経験のスポーツ」と言われることがあります。もちろんそれは間違いないのですが、経験だけで勝てるかと言えば、そうではありません。経験だけで勝てるのであれば、50歳、60歳の選手がいたとしてもいいわけですが、そういう選手がいないのは経験が1つの武器であり、体力、スピードなど他にも選手としての不可欠な要素がたくさんあるからです。
その意味でいえば、47歳になった今もなおチームの主力選手としてプレイしてい小野田美幸選手(LOWS)はとてつもない選手であると言えます。男女を通しても、今大会に出場している最年長選手なのです。いまだにバスケットに対する気持ちが衰えていないからこそ、こうやってプレイできるのでしょう。それについて小野田選手はこう言っています。
「たぶんそれは今、ものすごく弱いんですけど、愛知県内の中学や高校を指導していまして、そこでエネルギーをもらっているからだと思います。指導していても、まだ『この子たちには負けたくない』という思いがあって、それで自分も楽しめているのだと思います」
実はこの小野田選手、10年前に引退していますが、現在のトヨタ自動車アンテロープスでプレイしていた元Wリーグの選手なのです。引退後はトヨタ自動車で働きながら、平日に2回中学生を指導し、週末に高校生を指導するという日々を送っているとのことです。LOWSとしては練習をほとんどしていないので、さすがに体力は衰えたと言いますが、それでも「とりあえずジャンプはまだ飛べるような気がしています…こればかりは親に感謝でしょうか」と言って、笑っていました。
またこの「練習をあまりしていない」ということが、気持ちの面でも小野田選手には功を奏しているようです。「若い子たちと同じモチベーションでバスケットに臨めています」と言っているからです。
LOWS自体は3月におこなわれる「全日本クラブバスケットボール選手権大会」で優勝することを第一目標に戦っているチームです。例年ですと、オールジャパンは東海ブロックを勝ち抜くのが困難なので、重きを置いていなかったのですが、今年はチャンスだと思って、出場を狙っていたと小野田選手は言います。狙って、しっかりと出場し、しかも1回戦を突破しているのですから、やはり力があるということでしょう。
チームを結成して10年、初めて出たオールジャパンを精いっぱい楽しんだのではないでしょうか。2回戦のアイシン・エイ・ダブリュ ウイングス戦は【52‐94】で敗れてしまいましたが、小野田選手を筆頭にLOWSのメンバーは笑顔と真顔をクルクルと変えながら、最後まで楽しく戦っていました。
「オールジャパンに初めて出場して、この舞台でプレイできる楽しさを知ってしまったので、また出たいなという気持ちにはなっています。Wリーグのチームとまたやらせてもらいたいと思います。倒したい?そんな倒したいなんておそれ多いですよ」
最後まで笑顔でそう答える小野田選手。失礼を承知で書けば、47歳になってもなお現役選手として第一線でプレイできているのは、バスケットボールというスポーツを心から楽しんでいる、その笑顔があるからかもしれません。
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