現地レポート

唯一の得点に努力の結晶を見た!RSS

2012年01月08日 18時36分

2012年の皇后杯を下賜されるチームが決まりました。JXサンフラワーズが4年連続17回目のオールジャパン優勝です。【78-52】と、初めて決勝に進んできたデンソーアイリスを圧倒的な強さで下しました。さすがは王者・JXというところでしょう。


しかし、JXの強さを才能豊かなタレントが揃っているからだと考えるのは早計です。確かに彼女たちは才能豊かな選手です。サイズもあります。ただそれだけではないのです。吉田亜沙美選手は今大会の勝因をこう言っています。


「選手全員が自分たちのバスケットを徹底してやれたことが大きな勝因だと思います。それはスタートの5人もだけど、ベンチで控えている選手を含めて誰がコートに出たとしてもJXのバスケットができる。その結果が優勝できた要因だと思っています。そして今年はツキさん(内海亮子選手)が怪我をして出られない分、優勝して、早く戻ってきてほしいという思いを一人ひとりが強く持っていたことも勝因だと思います」


誰かのために――ここでは内海選手のため――という気持ちで戦えるハートを持っているからこそ、練習にも、試合にも集中できるのでしょう。今大会の正式名称にもある「『東日本大震災』被災地復興支援」という意味でも、JXの選手たちは積極的でした。自分たちも福島の体育館で被災した――昨シーズンのWリーグ・ファイナル第2戦が行われる前日が3月11日でした――だけに、やはり「誰かのために」という思いは一層強かったのでしょう。


誰かのためにという思いは今日の試合でも吉田選手のある行動に出ていました。第1ピリオドの残り1分49秒のところで決めた吉田選手のジャンプシュート。これが吉田選手のオールジャパン決勝で決めた唯一の得点なのですが、そのシュートを決めた後に吉田選手が珍しくコートの上でガッツポーズをしたのです。


「私の(苦手な)アウトサイドシュートを佐藤清美コーチが必死になって教えてくれて…」


ガッツポーズの理由を話そうとそこまで言ったとき、涙が一気にこぼれてきました。


「…その練習の成果が出た瞬間だったと思うんです。準決勝でも何本か打ったんですけど、そのときも『もっと足を使った方がいい』とか、『もっとドリブルを強く』とかアドバイスをくれて…本当に毎日教えてくれて、その成果が出てすごく嬉しかったんです。それにあのジャンプシュートで自分の中ですごく波に乗れたというか、そういう瞬間でもあったので、珍しく(喜びを)爆発させてしまいました」


あのガッツポーズは、ある意味で佐藤コーチに贈るものでもあったのでしょう。


確かにこれまでの吉田選手は積極的にジャンプシュートを打つタイプの選手ではありませんでした。中川文一前女子日本代表ヘッドコーチもよく「吉田にはもっと得点を狙ってほしい」と常々言っていました。狙うとしてもドライブがほとんど。それは吉田選手が一番よくわかっています。だからこそ、佐藤コーチとともに練習を積み重ねてきたのです。そのように才能豊かな選手が自分の弱点を克服しようと努力することにも、JXというチームの強さが見え隠れしています。吉田選手は言います。


「もっともっとチームの勝利に貢献したいんです。そのためには(自分の武器でもある)ディフェンスやリバウンド、ルーズボールはもちろんですけど、オフェンス面でも助けてあげられる部分があると思うので、私が攻める部分と引く部分、そしてパスを回して周りを生かす部分とを使い分けられるようになりたいと思います」


コンビを組む大神雄子選手は女子日本代表で「コンボガード(ポイントガードとシューティングガードの両方ができるガードのこと)」と呼ばれています。その称号は吉田選手にも当てはまりますし、もっといえば吉田選手にはリバウンド――決勝でもチームトップの8リバウンド――という武器もあるので、165cmの「オールラウンドプレイヤー」という言葉のほうがよりしっくりくるように思います。


そんな吉田選手は最後に6月にトルコで行われる「ロンドンオリンピック世界最終予選」に向けて、こう言ってくれました。


「長崎ですごく悔しい思いをしているので、(トルコでは)必ず切符を取って帰ってきたいと思います。まだ誰が選ばれるかもわからないですけど、また新しいチームで、日本らしいバスケットができるように私が率先して、チームを引っ張っていけるように頑張っていきたいと思います」


吉田選手のコートネーム「リュウ」」は「流れを変える」「流れを呼び込む」といったときの「流」から来ています。しかしながら辰年の今年は「竜」のように暴れ回ってくれるのではないでしょうか。オリンピック出場を心待ちにしているファンのために、支えてくれる家族やチームメイト、コーチのために、そして何よりも自分のために、吉田選手はこれからも自らを磨いていきます――。


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