現地レポート

小さくてもできる――熱い魂がもたらした優勝!RSS

2012年01月09日 19時32分


オールジャパン2012は、トヨタ自動車アルバルクが追いすがるアイシンシーホースを【69-65】で振り切り、5年ぶり2回目の天皇杯を下賜されました。今年のトヨタ自動車は才能豊かなタレントが多くいて、それらの選手が入れ替わり立ち替わり、フレッシュな状態でコートに入ってこられるのが最大の特長です。しかしながら、女子のJXサンフラワーズ同様、才能に任せたプレイをするのではなく、個々が自己研鑽を積み、それをチームプレイに昇華させて勝利に結びつけたのです。


そのなかでひときわエネルギッシュにコートを駆け回り、コート上でも、ベンチに戻っても声を出し続ける選手がいました。伊藤大司選手です。中学を卒業後に渡米し、モントロス・クリスチャン高校、ポートランド大学を経て、トヨタ自動車に入ったポイントガードです。アメリカでプレイしていたからといって、決して運動能力に長けたプレイヤーではありません。クイックネスがあるわけでもないし、ボールハンドリングが巧みだというわけでもありません。しかしながらヘッドコーチがチームに求めるバスケットを理解するバスケットIQやそれを愚直なまでに実践しようという気持ちの強さ、そしに何よりも勝ちに対する貪欲さはリーグでもトップクラスにあるように思います。


その伊藤選手が今日は積極的にシュートを狙っていました。


「このチームで勝ちたかったし、チームメイトがいいスクリーンをしてくれたのもあったんですけど、準決勝から調子がよくて、気分が乗っていたので『今日もやったるぞ』という気持ちはありましたね」


伊藤選手はゴールに向かう姿勢について、そう話してくれました。マッチアップの相手は日本代表のポイントガードでもあるアイシンの柏木選手です。その柏木選手を相手に、結果としてチーム2番目の11得点をあげているのです。


「柏木さんは初めからプレッシャーをかけてきて、攻めにくかったというのもありますし、オフェンスでもシュートは入るし、ドライブもできる選手なので怖さはもちろんありました。でもその分チームメイトがカバーディフェンスしてくれたし、オフェンスでは柏木さんを抜くためにスクリーンをしてくれたり、柏木さんを引きつけておいて僕にパスをくれたりしました。そういう意味では柏木さんのような選手に対するいい勉強にもなったし、いい経験にもなりました」


試合後に伊藤選手は柏木選手とのマッチアップをそう振り返ります。その柏木選手は伊藤選手が積極的に攻めてきたことに対して、こう言っています。


「(伊藤選手が攻めてくるとすれば)トヨタのプレイスタイルでもあるスクリーンしかないと思っていたし、結局それがすべてでした。スクリーンに対する守り方はわかっていても、インサイドプレイヤーとのコミュニケーションもあるし、体力的な部分もある。もちろん作戦はしっかりと練っていたし、ある程度対応できていた部分もあるけど、やっぱり試合の終盤になるにつれて、スクリーンが来るとわかっていても、限られたメンバーで戦うには体力的にきついところもありました」


つまりはスクリーンプレイにやられてしまった、そこから伊藤選手に決められてしまったというわけです。


スクリーンプレイなどの接触が起こるプレイは想像以上に体力を消耗します。だから頭ではかわし方をわかっていても、試合終盤になると体が反応できなくなってしまいます。その点ではトヨタ自動車が常にフレッシュなメンバーを投入できるという強みもあるのですが、それでもしっかりとスクリーンをかけて、その後のシュートを決めるにはチームと選手個々の力がうまく合致しないといけません。


【65-63】と2点差まで詰めてきたアイシンを突き放し、結果として決勝のゴールとなったのは、そんなスクリーンプレイからの伊藤選手のジャンプシュートでした。第4ピリオド残り32秒のことです。伊藤選手もそのシュートで勝利を確信したのかもしれません。


「僕たちのバスケットはチームで戦うバスケットで、それだけにチームの信頼があって初めて得点につながるんです。今日はそれがうまくつながった勝利だと思います」


伊藤選手はその活躍が認められ、大会ベスト5にも選ばれました。その紹介文は「気迫を前面に押し出す熱い魂の持ち主であり、トヨタ自動車のフロアリーダー」というものでした。けっして背は大きくありませんし、繰り返しますが運動能力が高いわけではありません。それでもオールジャパン2012のベスト5に入ったのは、熱い魂とそれをプレイで表現する実力を持ち合わせていたからでしょう。彼のプレイを見ていると、未来を担う小中高生の背の小さいプレイヤーにも夢を与えてくれるような気がします。小さくてもできるんだ、と――。



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