前へ、前へ――
2012年12月24日 18時21分
イタリアを代表するサッカー選手、ロベルト・バッジョが言っている。「今を戦えない者に、次とか来年と言う資格はない」と。その意味では
広島・県立広島皆実の2年生、#11 上長美菜は「今」を戦っている。今を戦い、明日へとつなげた。
自分には来年もある――そんなふうに考えたら勝てなかっただろう。1人でもそういう選手がいれば、そこからほころびが生まれるからだ。上長はただ目の前にある
静岡・常葉学園のゴールへと向かい、最後までコートを縦横無尽に駆け巡って[70-68]と
静岡・常葉学園を破る原動力になっている。
「自分の役割は速攻や1対1で点を取ることなので、とにかく走り続けないとその役割が果たせられません。練習のときから最後まで行き切ってファウルをもらうとか、シュートまで行くことを心がけています。」
ボールを持ったら前へ。それが上長のプレイスタイルだが、それでいて周りもしっかり見えている。ドライブからのキックアウトだけではなく、全体を見てパスができそうなときは素早くボールを離すこともできる。そう話を向けると、
「まだまだです。自分では前を向いてドライブをして、そこからのアシストを意識しているんですけど、まだまだ判断ができていないところがあります。私は3年生に比べると経験が少ないので、今はとにかく足を引っ張らないように一生懸命プレイするだけです。」
村井幸太郎コーチは、
「以前に比べると無茶をしなくなりました」と彼女の成長を認めながらも、
「でも今日はどちらかといえば消極的でしたね。常葉学園のファーストコンタクトに対してドリブルを止めていましたから。いつもはもっと行くなんですけど…少々の当たりだったらドリブルを止めるなと言っているのですが、それができてなかったことはちょっと…」
と不満顔だった。それでもやはりチームに縦の勢いを与える突破力は相手チームにとっても厄介な存在だ。周りにいるディフェンスが上長の突破を止めようとカバーに動けば、その分ずれが生まれて、
県立広島皆実の得点チャンスになる。パス&ランやモーションオフェンスといったパス中心のチームオフェンスが主流の現代にあって、とにかく前へ、という選手がいるのはいいアクセントになる。
明日は同じ中国地方の
山口・慶進と対戦する。慶進はインターハイでベスト8に入っており、県立広島皆実にとっては中国大会で大敗を喫しているチームでもある。だがその壁の向こうに自分たちの目標、ウインターカップのベスト8が見えている。
「自分たちの目標であるベスト8に入るために明日は絶対に勝ちます。私ですか?攻め続けます。」
そう言って笑う上長にはやはり来年のことを考える隙はない。とにかく今、ただ前へと駆け抜けるだけである。
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暗い「明」と明るい「暗」
2012年12月24日 14時26分
勝負の世界で「明暗を分ける」といえば、勝者が「明」で、敗者が「暗」となるのが相場である。しかし同時刻に隣接するコートで戦っていた同じ愛媛県のチームは、勝ったチームが少し暗めの「明」となり、敗れたチームがキラキラと輝くような「暗」になった。
愛知・星城を[60-56]で何とか振り切った
聖カタリナ女子のキャプテン、熊美里は苦々しく言う。
「(シードで今日が)初戦ということもありましたが、個人的には全然ダメでした。勝たせてくれた仲間に感謝です。チームとしても、相手どうこうというより、自分たちの持ち味を出せるかどうかがポイントだったのに、シュートも決まっていなかった。決まらないならばリバウンドももっと意識しなければいけなかったのに、それもできなくて…勝ったけど反省の多い試合になりました。」
一方、隣のコートで東京・明星学園に[54-78]で敗れた
済美のキャプテン、三好皐は目を赤くしながらも笑顔で応える。
「結果は負けてしまいましたが、最後の最後までみんなが諦めずに走りきれたと思うし、悔いのない試合ができたのでよかったです。」
相手はインターハイでベスト8に入っている全国きっての強豪校。最初は名前負けをしていたそうだが、それでも「自分たちは挑戦者なので、思いきり自分たちのプレイをしよう」とベンチで話し合い、最後まで笑顔で戦い抜いた。
「カタリナさんがインターハイ2位の枠で出場することになったので、初めて全国の舞台に来ることができました。でもインターハイ予選のときは3位だったので、ウインターカップの代表枠を決めるときには『自分たちが行くしかない』という気持ちになって、そこからチームが1つにまとまりました。その気持ちのまま県予選を勝ち切ることができたし、ウインターカップでもそのチャンスを無駄にせずに頑張ろうっていう気持ちで戦えました。本当に楽しかったです。」
チャンスを無駄にせず、自分たちのバスケットを全国の舞台で披露した済美に敗れたチームの暗さはない。あふれ出てくる涙は、悔しさよりもチームメイトに対する感謝やこのチームが終わる寂しさからだろう。全国の舞台に立った経験をこれからの人生にも生かしてほしい。
一方の聖カタリナ女子は、この反省を明日からの試合に生かさなければならない。もちろん第2シードとしてのプレッシャーもあるだろうが、同じ年に同じ県からウインターカップの舞台に立った済美のためにも、心からの笑顔で終えるような試合をしてくれるだろう。
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越えるべき山に挑む
2012年12月23日 22時49分
ある登山家が山に登る理由を問われて「そこに山があるからだ」と答えたそうだ。もしそうであるなら、高校生プレイヤーたちは自らが成長する理由を「そこにアイツがいるからだ」と答えるのかもしれない。
男子1回戦の好カードと言われた岐阜・美濃加茂と香川・尽誠学園の一戦は[77-113]という大差で美濃加茂が敗れた。尽誠学園には越えるべき「山」ともいうべき身長197センチの#7渡邊雄太がいる。その渡邊に、男子U-18日本代表のチームメイトであり、美濃加茂のエースセンターでもある#8赤土裕典が挑んだ。
「渡邊は身長が大きくて、ドリブルが器用で、それでいて当たりに弱いわけでもない。本当に素晴らしい選手だと思っています。今日の試合では途中、自分から渡邊を守ることを志願しました。チームの中心選手である渡邊をどれだけ止めるかでチームの雰囲気もガラリと変わると思ったからです。自分で志願した以上、必死で守ったつもりです。」
2年生センターの#13武藤崇正もまた、ベンチからコートに出ていき、渡邊の高さに挑んだ。
「いい経験ができました。練習で教えられていたテクニックをこれまでは実戦でうまく使えていなかったけど、渡邊さんを相手に思い切ってやってみようと思ってプレイしたら、少しだけですけど手応えを得ることもできました。」
結果として越えることはできなかったが、得ることもあった。それはほんの少しの手応えだが、その小さな手応えこそが今後に生きてくる。赤土は関東の大学に進学し、武藤はチームに残る。渡邊の去就はわからないが、ともにいつかは渡邊を越えたいと思っている。
その渡邊にもまた越えるべき山がある。昨年より1つ上の世界である。そのためにはまず夏に敗れた埼玉・正智深谷という山を踏破しなければならない。越えるべき山があることは男たちをまたひとつ大きくさせる。
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