現地レポート

日本一の代役RSS

2012年12月28日 16時08分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

怪我の功名といったら失礼だろうか。「東日本大震災」被災地復興支援 JX-ENEOS ウインターカップ2012 平成24年度 第43回全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会で優勝した愛知・桜花学園のポイントガード、#13森田菜奈枝は本来であればバックアップメンバーだった。しかし大会直前にスタメンのポイントガード、山田愛が怪我したことでその座が回ってきたのである。


「山田が怪我をしてガードが自分に変わったとき、もし桜花が負けるとしたら絶対に自分のせいだと思って、ここまで来ました。」


その覚悟は大会中にさらに加速する。3回戦の岐阜・岐阜女子戦で前歯を3本、根元から折るという怪我を負ったのだが、その日に手術をし、翌日の準々決勝にも出場しているのだ。医者からも次に同じところを折ったら「次は治る保証がない」と言われたにも関わらず、である。


「けっして山田の代わりはできていませんでしたが、自分が怪我したときも『山田の分まで走る』と山田と電話をしていたので、自分を信じて、絶対に勝ってやるっていう気持ちでプレイすることを決めました。」


覚悟が決まれば、あとはやるだけである。今日の決勝戦も聖カタリナ女子の強烈なプレッシャーに何度もミスを犯したが、それでも気持ちを折ることなく、その壁を突破していった。得意のディフェンスでも聖カタリナ女子の得意とする3Pシュートを1本に抑える一翼を担っている。名将・井上眞一コーチもその奮闘ぶりを認めている。


「得点力のある山田はいないけれども、森田にはディフェンスを頑張ってくれればいいと思っていました。インターハイの決勝戦が16点差で、今回が9点差。その差7点を山田がいない分だと考えれば、ディフェンスを得意とする森田を使ってよかったと思います。」


思えば今年の森田は誰かの「代役」が多かった。8月に行われた「第2回FIBA U-17 女子バスケットボール世界選手権大会」では、桜花学園の同級生で、福岡・高見中学時代のチームメイトでもある萩尾千尋が怪我をして、急きょメンバー入り。今回も山田の怪我がスタメンに入るきっかけとなった。井上コーチ自身、「山田がいれば森田はスタメンではなかっただろう」と代役であることを認めている。それでも森田は、自分のスタイルを貫くことでチームに貢献しようと考えた。



「自分ができることはディフェンスなので、萩尾が怪我をしたときもディフェンスを頑張って、ディフェンスを頑張ったらオフェンスでのシュートも入るって思って、U-17世界選手権に臨みました。今回も山田が急に怪我をしたので、自分のできるディフェンスを最大限に頑張ろうって思って、大会に入りました。」


最後まで自分を貫き通して、森田は栄冠をつかんだ。


今大会の会場である広島県立総合体育館は2年前、森田が中学3年生のときに「全国中学校バスケットボール大会」が開催された会場でもある。そのときは決勝戦で敗れて日本一になれなかったが、だからこそこの会場で日本一を勝ちとりたいと森田は思っていた。それが実現した。


「試合中、苦しい時間帯もありましたが、同じ会場で、しかも同じ決勝の舞台で負けるという同じことは繰り返せない、絶対に勝ってやると思っていました。」


森田は今日、2年前に辛酸を舐めた同じ会場で「日本一の代役」になった。



[ 記事URL ]

天国と地獄を知る男RSS

2012年12月27日 20時53分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

少し季節外れだが、運動会の定番曲の1つといえば「天国と地獄」だろう。メロディーを文字にすることは難しいが、たぶん聞けば「ああ、これか」と思い当たる方も多いだろう。そのように「天国と地獄」を聞いた人は多くいるだろうが、それを実際に体験した人は少ないだろう。


福井・北陸の満田丈太郎はウインターカップで「天国と地獄」を体験した数少ない選手だ。今から2年前の第41回大会でチームが初優勝を果たしたとき、貴重なシックスマンとして1年生ながら優勝に貢献した。しかしディフェンディングチャンピオンとして臨んだ昨年の第42回大会では1回戦負けという憂き目にあう。


「昨年1回戦で負けたことは北陸としてもすごく大変なことで、周りからの目も厳しくなり、チーム内の雰囲気も悪くなって、すごくツライ時期が続きました。それを修正するためにはチームの雰囲気から直さないといけないということで、練習からしっかりとコミュニケーションを取って、悪いところはすぐに直すようにしてきました」


といっても、それがスムーズにできたわけではない。スタメンがなかなか固定できず、久井茂稔コーチも試行錯誤を重ねたが、同じように選手間でも、どういうプレイヤーだったらみんなが一番スムーズにプレイできるのかを考えたという。


「僕個人としても学年が上がっていくうちに求められるものも大きくなって、まだまだ足りないものがたくさんありました。特に足りなかったのが『チームを引っ張っていくのは自分だ』という気持ちでした。周りの方からも『試合の流れを作るようなプレイヤーにならないといけない』と言われましたし…」


それでもなかなか気持ちに踏ん切りをつけて、チームを引っ張ることができなかった。その結果、インターハイで負け、国体には出られず、ウインターカップに入っても何かモヤモヤしたものが残っていた。それを打破したのが昨日の千葉・市立船橋戦である。


「いいシューターがいるのに自分が攻めてもいいのかと迷っていたところがあったんですけど、昨日の市立船橋戦の第4ピリオドでやっぱり最後は自分が引っ張らなければいけないって感じたし、チームメイトからもそう言ってくれたので、そこで吹っ切ることができました。今日もそれを維持してプレイしました。」


明日の対戦相手はインターハイで敗れた宮崎・延岡学園だが、満田を含め北陸に夏のような迷いの姿はない。2年前の優勝を肌で知っている満田だからこそ、当時のチームと今年のチームに共通点を見出すことができる。


「チームが一丸となっていて、すごく楽しいバスケットができています。応援席もそうですし、ベンチも、試合に出ているメンバーも仲良く楽しくやっているところは2年前のチームと同じだと思います。このまま北陸らしさを出していけば、明日はいい試合になると思います。」


ニーチェの言葉に「人生は常に頂上に近づくほど困難が増してくる。寒さは厳しくなり、責任は重くなる」がある。ウインターカップのトーナメントも同じことが言える。頂上に近づくほど困難は増してくる。チームリーダーとしての責任も重くなってくる。だが今の満田に迷いはない。もう1度天国の扉を開けるまで突っ走るだけである。


[ 記事URL ]

ライバルを打ち負かせ!RSS

2012年12月27日 14時19分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「彼女、なんか持ってるんですよね。パスをしたら何かやってくれるので心強いです。」


愛媛・聖カタリナ女子の宮崎早織は同級生の彼女のことをそう評する。彼女とは聖カタリナ女子のパワーフォワード、加藤瑠倭のことである。決勝進出をかけた準決勝、千葉・昭和学院戦で加藤は19得点、17リバウンドのダブルダブルをあげ、チームも[79-62]で快勝し、ウインターカップでは初の決勝進出を決めた。


試合後に「決勝進出は素直に嬉しいです。明日はチャレンジャー精神で頑張ります。」と言う加藤は、インターハイで苦い思い出を残している。初めての全国大会で緊張するあまり、自分のプレイをまったくすることができなかったのである。しかし今大会は3年生と一緒にプレイできる最後の大会。得意の1対1で1試合でも多く先輩たちと一緒にプレしたいと考えている。


小さいころからボールハンドリングが好きで、家の外でゴムボールを使ってさまざまなハンドリングをしていたという加藤は、ドリブルからのジャンプシュートが最大の武器だ。


「高校に入って先輩と1対1をすると、先輩たちはすごく上手で、特にガードの先輩とやると全然抜けなかったんです。身長では勝っているから上だけでも勝負できるのですが、そうではなく、ガードの先輩たちも抜いてみたくて、朝練など短い時間にボール回しや、遊びの感覚でできるようなハンドリングを練習していました。今日も試合中に一色コーチから「1対1をしろ!」って言われて、うまくできたのはそのハンドリング練習が役に立ったんだと思います。すごく嬉しかったです。」


173センチの上背で相手とのズレを生むバックチェンジは女子では珍しく、一見の価値がある。


しかも速攻の先頭に走る能力も併せ持っていて、宮崎とのコンビは今年のみならず、来年にもつながる聖カタリナ女子の新しい「ホットライン」と言える。


「早織はスピードが合って、一緒にプレイしていてすごく楽しいです。早織のスピードに自分が合わせたり、早織の打ったシュートを私がリバウンドでつなげたりして…やっぱり同じ学年だし、一緒にいる時間が長いから早織のプレイがわかるんですよね。インターハイのときは早織の動きにあまりついていけなかったけど、今はうまくついていけるようになったと思います。」


そしてこう続ける。


「自分がここまでうまくプレイできるようになったのは、早織のおかげですかね…言いたくないんですけど。」


そう言って笑う加藤だが、その目はもう決勝戦を見つめていた。相手はインターハイの決勝で敗れた愛知・桜花学園。しかもマッチアップの相手、馬瓜エブリンは小学校のときから対戦していたライバルだ。


「桜花にも1対1で攻めたいですね。エブリンは自分よりも背が大きいし、身体能力も高いけど、それでも譲りたくありません。中学のときは、チームでは勝っているんですけど、個人的には勝てなかったので明日は勝ちたいですね。」


ここ最近の練習試合では加藤のほうに分があったようだが、それでも加藤としては本番の試合で馬瓜を打ち負かしたいと考えているのだろう。バスケットボールの神様、マイケル・ジョーダンは「私は失敗を受け入れることができる。しかし、挑戦しないことだけは受け入れられないのだ」と言っている。加藤には失敗を怖れず、目の前のライバルに真っ向から立ち向かってほしい。


馬瓜のほうが分が悪いとわかっている桜花学園・井上眞一コーチも、馬瓜を加藤にマッチアップさせることを明言している。ライバル同士の戦いにも注目したい。


[ 記事URL ]