現地レポート

孤高の司令塔を支えた友情RSS

2014年01月12日 18時52分

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「あのときのような顔は見たくないな。今年はいい顔をして終わろう」


その言葉がJX-ENEOSサンフラワーズの司令塔、吉田 亜沙美選手を最後まで奮い立たせることとなった。言葉の主は同期入社の寺田 弥生子選手である。現在は右膝のリハビリ中でチーム練習にも合流できていないが、それでもチームのため、吉田選手のためにオールジャパン2014では献身的なサポートをしている。


寺田選手が昨年のオールジャパン2013を振り返る。


「負けた後、リュウ(=吉田選手)がこれまで見たことのない表情を見せていたんですけど、自分も何て声をかけていいのかわからずに、助けてあげることができなかったんです」


負けた悔しさに加えて、親友の助けにもなれなかったことが、冒頭の言葉にたどり着く。


「リュウは周りにいろんなことを話すタイプじゃないので、自分がリュウのいろんな気持ちを聞いてあげて、コートのなかで助けることはできないけど、一人ですべてを背負わないように、気持ちの面だけでも助けてあげられたらって思っているんです」


吉田選手自身もそんな寺田選手に全幅の信頼を置いている。


「クゥ(=寺田選手)は丸7年間ずっとそばにいてくれて、私の弱さもすべて知ってくれています。そんなクゥに『どんなときでも1人じゃないんだよ』って言ってもらえると、自分も強くなれます。それが自分のプレイにも表れているんだと思います」


オールジャパン2014の決勝戦、トヨタ自動車 アンテロープスとの一戦はトヨタ自動車のゾーンプレスとチェンジングディフェンスに苦しめられた。吉田選手も何度か険しい表情を見せていたが、そのたびにベンチを見て、寺田選手を見て「5人で戦っているんじゃない、チーム13人で戦っているんだ」と再確認できたという。それが険しい表情のあとに気持ちを切り替えて、「もう1回、ディフェンスをしよう!」と声をかけたり、ふと笑顔を見せたりしているのだ。


些細な表情の変化だが、その笑顔が最後まで吉田選手を冷静でいさせ、その笑顔を作るもとになったのが寺田選手というわけだ。


「リハビリをしていて自分が一番きついはずなのに、自分よりもチームのため、私のためにサポートしてくれるクゥは、選手としてはもちろん、人間としても尊敬できます。今大会の優勝もクゥの支えがあってこそだと思っています」


吉田選手がそういえば、寺田選手も言う。


「どちらかといえば私のほうがネガティブで、すぐに下を向くんです。でもそのときにリュウが『頑張ろう』と言ってくれて、助けてくれるんです」


1人はコートの上でチームを引っ張り、もう1人は最後までベンチに座ったままだったが、それでもお互いの気持ちが通い合ったからこそ、JX-ENEOSサンフラワーズは2年ぶりの皇后杯を下賜されたのである。むろんそれだけではないが、それも大きな要素であることを忘れてはいけない。


右膝の調子も徐々にだが上がってきているという寺田選手は、なんとか今シーズン中にコートに戻りたいと思って、明日からまたリハビリに励むことになる。


「今度はコートの上でリュウを助けてあげられたらいいですね」


絆は…友情は人を強くする。



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