表情に彩られたウインターカップ2013
2013年12月30日 16時44分
JX-ENEOSウインターカップ2013の閉幕から1日が過ぎ、その舞台に立った選手たちは今、何を思っているのだろうか?
勝ち負けだけを見れば、勝者は男女にそれぞれ1チームしかいない。それは優勝した明成(宮城)と桜花学園(愛知)である。しかし試合の勝ち負け以外にも、選手たちは思いを馳せていることだろう。果たして自分は、もしくは自分たちは持っているもののすべてを出し切ったのか。自分(たち)らしいプレイで最後まで戦えたのか――ウインターカップ2013を見ていて、実は勝ち負け以上にそのことのほうが大事なのではないかと、改めて気づかされた。
勝って笑顔になるのはもちろんだが、負けても笑顔になる選手を何人か紹介させていただいた。その選手たちは口をそろえて「やってきたことをすべて出し切った。後悔はない」と言っている。その清々しさに何度も心を打たれた。
一方で負けて涙を流し、悔しさを口にする選手も少なくなかった。その選手たちは負けたことはもちろんだが、それ以上に自分(たち)がやってきたことを、最後の舞台で出せなかったことに嘆いていたのだろう。
そして、ごく少数ではあるが、勝って、浮かない表情を浮かべる選手もいた。そうした選手はたいてい、翌日には気持ちを切り替えて、前を向き、上記の3つの表情になるのだが。
そのどれもがアスリートのあるべき姿である。バスケットボールという競技に対して、真剣に向き合ってきたからこそ、そうした感情が自然と湧いて出てくる。彼ら、彼女らは高校生だが、立派なアスリートでもあった。
この経験は必ず生きてくる。下級生は来年以降のチーム作りに、ウインターカップ2013に出場した先輩たちを参考にしてほしい。3年生はそれぞれの進路で、バスケットを続ける者も、新しい世界に挑戦する者も、ウインターカップ2013という高校バスケット界最高の舞台に立ったことを忘れずにいてもらいたい。苦しいことも、逃げ出したいこともあるだろうが、高校3年間の部活動で培った頑張りや粘りといったものがきっと助けてくれる。経験者が言うのだから――といっても、当方はウインターカップの県大会で負けて、本大会には出場していないが――間違いない。自分1人で解決できないときは、3年間をともにした最高の仲間が助けてくれる。これも間違いない。
ウインターカップ2013を見ていて、ふと一緒に戦ったチームメイトに会いたくなった方もいるのではないだろうか。大人になった今だからこそ語れる思いもあるはずだ。高校生がひたむきに、前だけを見て戦うウインターカップとはそんな舞台でもある。これもまたスポーツの底力である。
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流れを引き留めた定石の一手
2013年12月29日 16時41分
実力の差はほとんどなかった。それでも勝敗がついてしまうのがスポーツの世界である。
ウインターカップ2013の男子決勝は、明成(宮城)が福岡大学附属大濠(福岡)を[92-78]で破り、4年ぶり2回目の優勝を果たした。「終始、我々のほうがゲームをコントロールしながら、進めることができました。その時間の多さが勝因でしょう」と、明成の佐藤 久夫コーチは言う。
コントロールしたなかでも、勝利に結びつく1つの鍵を挙げるとすれば、第4ピリオドの残り8分43秒で佐藤コーチが取ったタイムアウトにある。明成が10点差でリードしている場面で、福岡大学附属大濠の津山 尚大選手が3Pシュートを沈め、7点差になった場面である。佐藤コーチはそれを「相手がリズムに乗り切る前にタイムアウトを取るのは定石ですよ」と言う。確かにそのとおりである。
だが、あの瞬間、3Pシュートを沈めて、意気揚々と追い上げ体勢に入ろうとした津山選手はタイムアウトのブザーを聞いて、嫌な顔をした。そして明成ベンチを一瞥する。
「3月に行われた『おきなわカップ』で対戦したときに、前半、僕のシュートがよく入っていたんです。そのときも久夫先生はタイムアウトを取って、そこからマークを厳しくしてきました。だから今日もまた、このあとマークを厳しくされるのかなって……」
実際にタイムアウトの後、津山選手はそれまで以上に厳しいマークをされている。「勝ちたいという一心で」3Pシュートを3本入れてはいるが、福岡大学附属大濠がチームとして流れに乗り、一気に追い上げるというところまでには至らなかった。その点で相手のポイントゲッターに嫌なイメージを与えた、このタイムアウトの意味は大きい。
「基本的にはタイムアウトは取らないようにして、選手の判断に任せるようにしていた」佐藤コーチの、この試合で取った唯一のタイムアウトがゲームを決めた要因の1つといっても過言ではない。
定石どおりとはいえ、相手に傾きそうな流れを素早く察知し、すぐにタイムアウトを取った佐藤コーチの決断もまた、あっぱれである。選手だけではない、コーチも含めたチーム力で明成は冬の王座を奪回したわけである。
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ウインターカップに飲み込まれた2年生エース
2013年12月28日 20時12分
藤枝明誠(静岡)の2年生エース・角野 亮伍選手にとって、初めてのウインターカップはほろ苦いものとなった。インターハイと同じように決勝戦進出を狙った準決勝で、明成(宮城)に[92-108]で敗れたのである。
「ウインターカップは3年生にとって最後の舞台。それだけどのチームの3年生も気持ちが強いなと感じました。気持ちでは僕も負けていないつもりでしたが、3年生の最後にかける気持ちは想像以上に強かったです」
たった1年の差ではあるが、その差が高校生にはとてつもなく大きい。特に角野選手が挙げた“気持ちの強さ”は、試合の結果さえも大きく左右する。
それでもエース対決となった明成の3年生、白戸 大聖選手とのマッチアップで、角野選手は厳しいマークを受けながら両チームトップタイの37得点を挙げている。加えて、最後までオフェンスリバウンドに飛び込むなど、「勝ちたいんだ」という気持ちを前面に出していた。リバウンドなど献身的なプレイをしたことについて、角野選手はこう言っている。
「3年生が真剣にやっているのに、2年の僕がサボったらダメだから……今大会は3年生に引っ張られました」
“ウインターカップは3年生が主役”と言われるゆえんを角野選手は肌で感じたわけだ。
来年はその3年生になる。名実ともに藤枝明誠の大黒柱として、チームを引っ張らなければならない。その一方でエースである以上、どのチームからも厳しく守られるだろう。そのことは角野選手もわかっている。
「技術的にうまくなるのはもちろんですが、マークのされ方がこれまで以上に厳しくなると思います。そのときにどれだけ頭を使って得点を取れるか、来年の課題です」
勝っても負けても、そして自身の調子がよかろうが、悪かろうが、記者から毎日のようにコメントを求められるのは、すでにエースである証拠だ。しかし昨年度の日本代表候補はまだまだ発展の途上にある。最上級生になって技術に頭脳が加わり、そしてメンタル面でも波が小さくなれば、これまで以上にアンストッパブルなエースになるだろう。
だが、来年に向かう前に忘れてはいけない大事な試合がある。インターハイの決勝で敗れた京北(東京)との3位決定戦である。角野選手は言う。
「決勝戦よりも注目させるゲームをしたいです。そして色は気に入らないけど、メダルを3年生に贈りたいです」
2年生としての最後のゲームに、2年生の自分にできるすべてを注ぎ込むつもりだ。
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