26得点の陰に妻の支えあり
2013年01月02日 15時13分
映画「ダイ・ハード」で主人公がこんなことを言っている。「愛しているとは何回も言ったけど、ありがとうと言ったことはなかった」。もしその主人公と同じであればMTCのシューター、一宮孝博は妻であり、マネージャーでもある幸さんに「ありがとう」を伝えなければいけない。
九州ブロック代表としてオールジャパンに初出場を果たしたMTCは北信越ブロックの富山大学と対戦し、[77-101]で敗れた。だが、その試合で一宮は3Pシュート6本を含む、チームトップの26得点を挙げている。
「自分は3Pシュートが得意なので、みんなが打たせてくれます。だからこの試合でも狙っていこうと思って、コートに立ちました。」
チームとしては代々木第1体育館の雰囲気に飲まれて、自分たちらしいプレイを出すことができなかった。課題もたくさん見えたが、それでも一宮は初の大舞台を楽しんだという。それは幸さんも同じだ。
「お正月を東京で迎えるなんて人生で初めての体験だし、夫のチームの人たちには感謝しています。すごく高いレベルのバスケットを見ることもできて、私自身バスケットをしているので、すごく勉強になりましたし、本当にいい経験ができたと思っています。」
そして夫のプレイぶりに聞かれると、こう答えている。
「チームの人たちに打たせてもらっているというか、シュートを打てる状況を作ってもらって彼がシュートを打てているので、チームの人たちにはすごくありがたいなと思っています。」
夫と同じように、夫のプレイはチームメイトによって引き出されていると認め、チームメイトへの感謝を口にしたのである。人への感謝を忘れない似た者夫婦なのだろう。
この大会を迎えるにあたり、幸さんは一緒にできるトレーニングを一緒にし、食生活や睡眠時間にも気を配ってきた。そのおかげで一宮が大舞台でその実力を発揮することができた。話をそう向けると「そうだったら嬉しいですね」と幸さん。
一宮の26得点は支えてくれた人たちへの感謝の表れだろうが、このあと都内で行われるであろうチームの打ち上げでは、幸さんにも感謝の気持ちを、ここはひとつ男らしく、言葉で伝えてほしいと思う。
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チャンスをつかむために
2013年01月01日 20時18分
景気がよくない昨今、大学生の就職内定率もけっしてよくはない。それでも多くの大学生は安定を求めて――といっても今の時代に「安定」などあってないようなものだが――就職できそうな企業を回っている。それを否定するつもりはない。自分の決めた道を進むのは結局自分なのだから。ただ手塚治虫は言っている。「医者は生活の安定を約束していた。しかし、僕は画を描きたかったのだ」と。医師免許を持っていながら、戦後の混乱期に漫画の道を選んだ意志こそが、のちに「漫画の神様」と言われる最大の要因なのだろう。
今年9月に開幕する日本の新しいトップリーグ「NBL」に参戦するデイトリックつくばがオールジャパンのコートに初めて立った。結果は社会人2位の横河電機に[85-74]で勝利し、2回戦へと進んだ。
そのデイトリックつくばに昨年の春、国際武道大学を卒業したばかりの新人がいる。大金広弥である。
「(国際武道大学が所属していた)関東大学3部リーグでは得点王を取りましたが、このチームにはトライアウトで入りました。チャンスをつかみたいと思って…」
現実的に考えると、関東大学3部の選手がトップリーグのチーム――たとえばトヨタ自動車アルバルクやアイシンシーホースなどに入るのは極めて困難だ。しかしNBL入りを目指す新規チームであれば自分にもチャンスがあるのではないか。大金はそう考え、一般企業への就職ではなく、バスケットを続ける厳しい道を選んだ。関東大学1部の選手であっても、プロへの道を選ばず、就職して少しでも安定した収入を得、会社の部活動やクラブチームなど細々とバスケットを続ける選手が少なくないのに、である。
もちろんデイトリックつくばに入り、NBLに参戦したからといって大金に成功が約束されているわけではない。むしろこれからのほうが本当の厳しさを実感することになるだろう。
「安定したゲーム展開で勝てたゲームでしたが、終盤に詰めの甘さから追い上げられたことは反省しなければいけません。それでも勝って2回戦に進めたことは大きいです。次は近畿大学との試合ですが、そこにも勝って、日立(サンロッカーズ)とやってみたいです。」
まだまだポイントガードとしてのスキルが足りないと自認する大金だが、今日の横河電機戦で15得点を挙げた得点力は新規参入チームにとって魅力そのものだ。その能力がインカレ4位の近畿大、JBL5位の日立にどれだけ通用するのか。たとえ完膚無きまでに叩きのめされようとも、それを含めて彼の選んだ道である。キリスト教神学者のフランシス・ベーコンは言っている――人生は道路のようなものだ。一番の近道は、たいてい一番悪い道だ。
自身のチャンスをつかむためにも、秋からの新リーグを盛り上げるためにも、大金にはオールジャパンという茨の道を迂回することなく、正面から突き進んでもらいたい。
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笑顔で戦う先生プレイヤー
2013年01月01日 15時42分
ウインターカップ2012が終わり、多くの高校生がひとときの休息をすごしている中、「オールジャパン2013」には4校のウインターカップ出場チームが出ている。男子の宮崎・延岡学園と女子の愛知・桜花学園はインターハイを制したことで得た高校生枠で出場し、大阪・大阪薫英女学院と岐阜・岐阜女子はそれぞれ近畿、東海ブロックを勝ち抜いて出場を決めている。
しかし、ウインターカップ2012の舞台に立って、なおかつ、オールジャパン2013の舞台にも立つのは彼らだけではない。
北信越ブロックを勝ち抜いていた石川教員の#4竹本茜は、石川・県立津幡高校の引率責任者としてウインターカップのベンチに入っている。
「クラブチームで練習時間も少ないし、やっている内容も大学生に比べたら厳しくないけど、やるからには勝ちたかったですね。でも楽しかったです。」
県立津幡高校から大阪体育大学に進み、エースの活躍をしていた竹本が県立津幡高校の体育教師になったのは今年度から。生徒たちのバスケットに対する思いをしっかり受けての出場である。
「普段、選手たちにさまざまなことを言っているので、今回はプレイヤーとして見本を見せなければいけないということと、ウインターカップであの子たちは悔しい思いをしていたので、その分『先生は頑張ってくれるでしょ?』みたいな感じで見送ってもらいました。」
結果は1回戦敗退だったが、それでも竹本はスッキリとした笑顔を見せていた。
「今年、津幡で最初にバスケットをスタートさせたので、試合の話だけじゃなく、会場の空気なども選手たちに伝えていきたいですね。」
北海道代表のアカシヤクラブにもウインターカップのベンチに入っていた選手がいる。北海道・札幌山の手高校のアシスタントコーチ、#7船引まゆみである。
「楽しかったですね。いろんな知り合いに会えたし、1回戦から勝つか負けるかの勝負って本当に久しぶりで…それこそ(前所属の)富士通レッドウェーブが日本リーグの2部にいたころ以来、約10年ぶりの経験でしたけど、すごく楽しかったです。」
富士通時代に皇后杯を3度下賜され、準優勝も2度経験している船引だが、今は札幌山の手高校の家庭科教師。オールジャパンでの結果は竹本と同じように1回戦で敗退だったが、その顔に悲壮感はなく、むしろ彼女らしい大きな笑顔を見せていた。
「ウインターカップがあると自分の練習がなかなかできませんでした。でもオールジャパンの出場が決まった12月の初めくらいから(札幌山の手の)生徒と一緒にガンガンやってきて、お互いいい刺激になって試合に臨めたかなと思います。また、大阪薫英女学院高校や岐阜女子高校がオールジャパンでもすごく一生懸命やっているのを見て、バスケットの原点ってこういうところにあるのかなって感じることができたのはよかったと思います。」
ユダヤ民族の知恵を集めた『タルムード』にこんな言葉がある――腹が減ったら歌え。傷ついたら笑え。神は朗らかな者を祝福し給う。楽観は自分だけでなく、他人をも明るくする。
2013年の元日に戦いながらも見せた2人の笑顔は、彼女たちだけでなく、彼女たちの生徒にも明るい未来を与えることになるだろう。
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