現地レポート

エースの証明RSS

2013年01月06日 02時10分

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エースであることは相手チームが証明してくれる。大学2位・青山学院大学の#56比江島慎を代わる代わるマッチアップしたのはJBL1位・トヨタ自動車アルバルクの#10岡田優介と#11熊谷宣之だった。この2人といえば、昨シーズンのJBLファイナルでアイシンシーホースのエースガード・柏木真介を封じ込めたトヨタ自動車随一で、かつJBL屈指のディフェンダーだ。そんな2人のディフェンダーについて、比江島は試合後にこんなコメントを残している。


「ボールを持たせないようにするディナイディフェンスも厳しかったですし、フィジカル面でもしっかり体を当ててディフェンスをされました。審判の見えないところではずる賢いというか、うまいディフェンスもされましたし、本当に苦労しました。」


そう言いながらも比江島は両チームトップの26得点を挙げている。まさに“エースの面目躍如”である。


「インカレ後は正直、自分としてもオールジャパンに向けてあまりモチベーションが上がりませんでした。でも監督の長谷川(健志)さんが『オールジャパンが大学での引退試合になるかもしれないのだから、お前がチームを引っ張って、悔いのないようにやれ』と言ってくれて、モチベーションを上げることができました。実際大会に入るとお客さんも学生がJBLのチームを倒すことを期待してくれていたし、自分たち青学を多くの人たちが応援してくれたので、それが力になりました。」


今シーズンを振り返ると、比江島はすべてにおいて順調というわけではなかった。昨年5月の李相伯杯(日韓学生バスケットボール競技大会)の初戦では0得点という憂き目を見たし、9月に開催された第4回FIBA ASIA カップでは各国代表との差を痛感させられた。関東大学連盟主催の大会こそ春、秋ともに優勝しているが、大学日本一を決める11月のインカレでは決勝戦で東海大学に苦杯を嘗めさせられている。



自らが受けたすべての屈辱と、それらを打破するために周りから受けた応援を力に変えて、比江島はチームをレバンガ北海道戦の勝利に導き、トヨタ自動車とのベスト4をかけた準々決勝につなげたのである。結果は[68-99]で敗北したが、「前回王者のトヨタ自動車に対しても青学のバスケットは通用したと思うし、十分にやりきったと言えます」と胸を張る。


卒業後は来シーズンからスタートするNBL(National Basketball League)でプレイすることが決まっている。その抱負を聞かれて比江島は「試合に出たら自分は通用するんじゃないかと思っています」と言う。確かにトヨタ自動車戦の結果を見れば、その言葉が大言壮語ではないとわかる。だが今後は、おそらく、これまでのシューティングガードからポイントガードに転向することになる。今年度、日本代表で経験している分、ゼロとまでは言わないものの、それでも1からの出発と言っていい。やれる自信はあるようだが、それでも不安に思うことがあったら、ノンフィクションライター・山際淳司の言葉を思い出してほしい。


「自分にいま、ないものをカウントするとどんどん不安が募るだけだよ。むしろ自分にある大切なものをひとつひとつ数えてごらん。そうしたらおのずと不安なんてなくなるよ。」


他の選手が持ちえないものを多く持っている比江島。スキル、視野、イマジネーション――ほかにもまだまだあるが、それら自分の持っているすべてのものを武器にしてNBL、および日本代表でも暴れ回ってもらいたい。青山学院大のエースはこれから日本のエースへの道を進む――。



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