現地レポート

チャンスをつかむためにRSS

2013年01月01日 20時18分

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景気がよくない昨今、大学生の就職内定率もけっしてよくはない。それでも多くの大学生は安定を求めて――といっても今の時代に「安定」などあってないようなものだが――就職できそうな企業を回っている。それを否定するつもりはない。自分の決めた道を進むのは結局自分なのだから。ただ手塚治虫は言っている。「医者は生活の安定を約束していた。しかし、僕は画を描きたかったのだ」と。医師免許を持っていながら、戦後の混乱期に漫画の道を選んだ意志こそが、のちに「漫画の神様」と言われる最大の要因なのだろう。



今年9月に開幕する日本の新しいトップリーグ「NBL」に参戦するデイトリックつくばがオールジャパンのコートに初めて立った。結果は社会人2位の横河電機に[85-74]で勝利し、2回戦へと進んだ。


そのデイトリックつくばに昨年の春、国際武道大学を卒業したばかりの新人がいる。大金広弥である。


「(国際武道大学が所属していた)関東大学3部リーグでは得点王を取りましたが、このチームにはトライアウトで入りました。チャンスをつかみたいと思って…」


現実的に考えると、関東大学3部の選手がトップリーグのチーム――たとえばトヨタ自動車アルバルクやアイシンシーホースなどに入るのは極めて困難だ。しかしNBL入りを目指す新規チームであれば自分にもチャンスがあるのではないか。大金はそう考え、一般企業への就職ではなく、バスケットを続ける厳しい道を選んだ。関東大学1部の選手であっても、プロへの道を選ばず、就職して少しでも安定した収入を得、会社の部活動やクラブチームなど細々とバスケットを続ける選手が少なくないのに、である。


もちろんデイトリックつくばに入り、NBLに参戦したからといって大金に成功が約束されているわけではない。むしろこれからのほうが本当の厳しさを実感することになるだろう。


「安定したゲーム展開で勝てたゲームでしたが、終盤に詰めの甘さから追い上げられたことは反省しなければいけません。それでも勝って2回戦に進めたことは大きいです。次は近畿大学との試合ですが、そこにも勝って、日立(サンロッカーズ)とやってみたいです。」


まだまだポイントガードとしてのスキルが足りないと自認する大金だが、今日の横河電機戦で15得点を挙げた得点力は新規参入チームにとって魅力そのものだ。その能力がインカレ4位の近畿大、JBL5位の日立にどれだけ通用するのか。たとえ完膚無きまでに叩きのめされようとも、それを含めて彼の選んだ道である。キリスト教神学者のフランシス・ベーコンは言っている――人生は道路のようなものだ。一番の近道は、たいてい一番悪い道だ。


自身のチャンスをつかむためにも、秋からの新リーグを盛り上げるためにも、大金にはオールジャパンという茨の道を迂回することなく、正面から突き進んでもらいたい。


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