現地レポート

“いい子たち”からの卒業RSS

2013年01月06日 16時37分

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勝負の世界において「厳しさ」は必須である。「人のよさ」はいらない。けっして褒められたことではないが、強いチームになればなるほど、審判に食ってかかるようなアピールをするし、笛がなったあとでもボールを離そうとしない。すべては勝つために。選手はただその一点のためだけに厳しさを追い求めるのである。だがWJBL8位のアイシン・エイ・ダブリュ ウィングスは人のよいチームだった。


現役時代、プレイのみならず、勝負に対する厳しさにも長けていたアイシン・エイ・ダブリュのヘッドコーチ、山田かがりは言う。


「私は現役時代、悪い子でしたけど、ある意味でウチの選手たちは真面目で、いい子なんです。『やれ』と言ったことに対しては素直にやるんですけど、それ以外の駆け引きがまだまだ下手ですね。経験の差なのか、見えないところで汚いことをするようなこともまだまだできませんし…今日のゲームでもその差はあったと思います。」


オールジャパン2013の準決勝進出をかけたトヨタ自動車 アンテロープス戦は[46-92]、ダブルスコアでの敗戦となった。もちろん技術、体力、戦術理解度などバスケットに関わるすべてにおいても差はあったが、その差を埋めようとする厳しさ、端的に言えば「勝利に対する執念」のようなものがアイシン・エイ・ダブリュからは感じられなかった。


「高崎ひとみはそういうことができそうな選手ですけど、それでもまだまだです。昔は私を含め濱口典子や島田智佐子、慶山真弓といった選手が若い選手に見本を見せることができていましたけど、今はそういった選手もいません。もう少し時間はかかりそうですけど、いい子を卒業して、戦う集団にならなければいけません。」


それでも少しずつ進歩はしていると山田は言う。事実、Wリーグで2連敗を喫しているWJBL6位・新潟アルビレックスBBラビッツに逆転で勝利を挙げてのオールジャパンベスト8入りである。「新潟戦は総合力の勝利」と山田は言うが、そこには勝利への執念も含まれている。


「新潟戦はなんとかこれまでの苦手意識を払しょくして、オールジャパン明けのプレイオフ・ファーストラウンドに入りたかったんです。もちろん、昨年は入れなかったオールジャパンのベスト8入りのチャンスもあったから、それも含めて今回はチャンスを生かせる位置にありました。結果として新潟に対する苦手意識を払しょくできてプレイオフに臨めることはウチにとっては大きいことの1つですね。」


作家の吉川英治がこんな言葉を残している――登山の目標は、山頂と決まっている。しかし人生の面白さ、生命の息吹の楽しさは、その山頂にはなく、かえって逆境の、山の中腹にあるという。


バスケットボールもそうかもしれない。すべてのチーム、選手が目指す目標は「優勝」という名の山頂だが、そこに至るまでの道のりが苦しくも面白いのだ。険しい道かもしれないが、そこを踏破するためには、やはり「厳しさ」が必要になる。アイシン・エイ・ダブリュ ウィングスは今、山の中腹あたりにいる。


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エースの証明RSS

2013年01月06日 02時10分

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エースであることは相手チームが証明してくれる。大学2位・青山学院大学の#56比江島慎を代わる代わるマッチアップしたのはJBL1位・トヨタ自動車アルバルクの#10岡田優介と#11熊谷宣之だった。この2人といえば、昨シーズンのJBLファイナルでアイシンシーホースのエースガード・柏木真介を封じ込めたトヨタ自動車随一で、かつJBL屈指のディフェンダーだ。そんな2人のディフェンダーについて、比江島は試合後にこんなコメントを残している。


「ボールを持たせないようにするディナイディフェンスも厳しかったですし、フィジカル面でもしっかり体を当ててディフェンスをされました。審判の見えないところではずる賢いというか、うまいディフェンスもされましたし、本当に苦労しました。」


そう言いながらも比江島は両チームトップの26得点を挙げている。まさに“エースの面目躍如”である。


「インカレ後は正直、自分としてもオールジャパンに向けてあまりモチベーションが上がりませんでした。でも監督の長谷川(健志)さんが『オールジャパンが大学での引退試合になるかもしれないのだから、お前がチームを引っ張って、悔いのないようにやれ』と言ってくれて、モチベーションを上げることができました。実際大会に入るとお客さんも学生がJBLのチームを倒すことを期待してくれていたし、自分たち青学を多くの人たちが応援してくれたので、それが力になりました。」


今シーズンを振り返ると、比江島はすべてにおいて順調というわけではなかった。昨年5月の李相伯杯(日韓学生バスケットボール競技大会)の初戦では0得点という憂き目を見たし、9月に開催された第4回FIBA ASIA カップでは各国代表との差を痛感させられた。関東大学連盟主催の大会こそ春、秋ともに優勝しているが、大学日本一を決める11月のインカレでは決勝戦で東海大学に苦杯を嘗めさせられている。



自らが受けたすべての屈辱と、それらを打破するために周りから受けた応援を力に変えて、比江島はチームをレバンガ北海道戦の勝利に導き、トヨタ自動車とのベスト4をかけた準々決勝につなげたのである。結果は[68-99]で敗北したが、「前回王者のトヨタ自動車に対しても青学のバスケットは通用したと思うし、十分にやりきったと言えます」と胸を張る。


卒業後は来シーズンからスタートするNBL(National Basketball League)でプレイすることが決まっている。その抱負を聞かれて比江島は「試合に出たら自分は通用するんじゃないかと思っています」と言う。確かにトヨタ自動車戦の結果を見れば、その言葉が大言壮語ではないとわかる。だが今後は、おそらく、これまでのシューティングガードからポイントガードに転向することになる。今年度、日本代表で経験している分、ゼロとまでは言わないものの、それでも1からの出発と言っていい。やれる自信はあるようだが、それでも不安に思うことがあったら、ノンフィクションライター・山際淳司の言葉を思い出してほしい。


「自分にいま、ないものをカウントするとどんどん不安が募るだけだよ。むしろ自分にある大切なものをひとつひとつ数えてごらん。そうしたらおのずと不安なんてなくなるよ。」


他の選手が持ちえないものを多く持っている比江島。スキル、視野、イマジネーション――ほかにもまだまだあるが、それら自分の持っているすべてのものを武器にしてNBL、および日本代表でも暴れ回ってもらいたい。青山学院大のエースはこれから日本のエースへの道を進む――。



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流れを変えた1本のドライブRSS

2013年01月05日 16時51分

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幕末の兵学者で思想家でもある佐久間象山の言葉に「士は過ちなきを貴ばず、善く過ちを改むるを貴しとなす」がある。「士」とは武士のことであるが、シャンソン化粧品 シャンソンVマジックの若き女武者、#12三好南穂もまたリーグ戦前半の反省点を改め、オールジャパン準決勝進出に大きく貢献した。


準々決勝の相手はWリーグのレギュラーシーズンで競り合っている三菱電機 コアラーズ。どういう試合展開に持ち込むか、両チームが探り合っている第1ピリオドに三好は11得点を挙げている。「最初から攻める気持ちで点数を取りに行こうと思っていました」というとおり、積極的に3Pシュートを放ち、結果として打った3本すべてを沈めたのだ。


しかしここで取り上げたいのは11得点でも、確率100%の3Pシュートでもない。第1ピリオド残り24秒で決めた、この日唯一のドライブである。


「Wリーグの前半戦が終わって、自分のプレイを見返したときに、自分の縦に行くドライブが少なくなっているなと思ったんです。だからこのオールジャパンからは縦に切ることを意識していました。あのときは3Pシュートが連続で決まっていて、ディフェンスも打たせないように出てきたので、ここはドライブに行けるなと思って仕掛けました。」


三好の武器は3Pシュートである。3ポイントラインから少し離れた、つまりゴールから遠い位置からでも狙い、沈めてくる。この日もその3Pシュートを3本を決めたあとだっただけに、ディフェンスとしては当然4本目を止めに出てくる。そこを三好は見逃さなかったわけだ。


たった1本のドライブだが――事実、この日の最終スタッツを見ると三好の2ポイントシュートはそのドライブだけである――そのドライブがディフェンスに「三好はドライブも仕掛けてくる」という意識をすりこませ、間合いの取り方に迷いを生じさせた。それが「ドライブのあとは3Pシュートが打ちやすくなりました」という後半のプレイにもつながるのである。


1月10日(金)に行われる準決勝の相手は4連覇中のJXサンフラワーズである。Wリーグのレギュラーシーズンでは、2試合目こそ2点差だったが、結果として2連敗を喫している相手だが、今回の三好はそのときの三好とは違う。


「自分としては負けたら終わりという試合のほうが好きというか、自分らしいプレイができます。」


自分らしいプレイ――すなわち三好の得意とする3Pシュートと、ゴールに向かう縦のドライブが絶対王者を襲う。


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