現地レポート

Bコートに棲む魔物、ふたたび…RSS

2011年12月25日 18時30分

ウインターカップには、ある都市伝説のようなものがあります。それは「Bコートには魔物が棲んでいる」というものです。たとえば2005年の第36回大会の女子・準々決勝。吉田亜沙美選手(現JXサンフラワーズ)擁する東京・東京成徳大学はBコートで福岡・中村学園女子に敗れました。その翌年、同じく女子・準々決勝、服部直子選手(現デンソーアイリス)擁する愛知・桜花学園高はBコートで岐阜・岐阜女子に敗れています。Bコートには魔物がいると囁かれるようになったのは、そのあたりからです。いや、もしかしたら、もっと前から言われていたのかもしれません。


しかし2008年からコート展開が体育館のメインコートが3面とサブコートの1面、あわせて4面展開になると――それまではメインコートが4面、サブコート1面の計5面展開でした――Bコートの魔物は陰をひそめていたのです。そして昨年、インターハイ準優勝の宮城・明成が静岡・沼津中央に2回戦で敗れたのがAコートだったので、魔物はAコートに移住したのではないかと思っていました。




しかし、やはり魔物はBコートにしっかりと巣を作っていました。昨日の福井・北陸に続き、今年のインターハイ準優勝チームで、昨年のウインターカップの準優勝チームでもある福岡・福岡第一が、Bコートで香川・尽誠学園に【70-86】で敗れてしまったのです。


もちろん昨日の勝者である青森・県立弘前実業や、尽誠学園に勝つだけの実力があったということは紛れもない事実です。それを“魔物の力を借りて”などと言うつもりはありません。しかしながら、敗れた者にとってはやはり“魔物にとりつかれた”感覚だったのではないでしょうか。


福岡第一にとっての最大の魔物は、大会直前からチームにとりついていました。インサイドの要であるゲエイ・マリック選手が21日の練習で膝を怪我してしまったのです。また、スタメンポイントガードに起用しようとした大城侑朔選手も怪我をしてしまい、何とか動けるまでに回復したところだったそうです。しかし「それは仕方のないこと」と井手口孝コーチも、鵤誠司選手も言っています。


「逆に彼の分までって硬くなった上に、前半のファウルトラブルで守れなくなって…悪いほう、悪いほうに転がってしまいましたね。調整はうまくいっていたんですが、直前になっての怪我も含めて、なんかうまくいかなかった…それは仕方がないんだけど、やっぱり1年間通して、練習を見られない時間が多かったので、なんとか取り戻そうと頑張ってみたんだけど、逆にそれが悪いほうにいってしまったのかもしれません。初戦ということもあったでしょうね」(井手口コーチ)



「自分たち3年生にとって最後の大会ということで、勝たなきゃいけないっていう気持ちが強すぎて、その気持ちがおかしな方向にいったように思います。マリックが怪我をしたときは動揺もありましたけど、今日はそのことを意識することなく、マリックがいないときの練習もしてきていたので、怪我人がいるからどうこうというのはなかったです。ただ昨年、一昨年とチームがよくまとまっていたんですけど、今年はリーダーシップを発揮するような人もいなかったし、そこの部分が少し足りなかったかなと思います。試合に出ている人も、ベンチの人も一丸になってないわけではないんですけど、少しそこの部分が甘かったように思います」(鵤選手)


彼らにとってはインターハイ以来の公式戦。ウインターカップの予選はインターハイで準優勝したことで免除されていますし、国体にも出られませんでした。福岡県の総合選手権には井手口コーチが男子U-16日本代表のアシスタントコーチとして「第2回FIBAアジアU-16男子バスケットボール選手権大会」に出場していたので、チームを見られなかったそうです。もちろんアシスタントコーチはいますが、その期間に自分たちでチームをまとめ上げることができれば――スポーツに「たられば」は禁物ですが――また違うチームに変わっていたのかもしれません。



「周りの人はみんな『優勝だ、優勝だ』というもので大変なんだけれども、負けちゃならない、負けちゃならないって思ってこれまでやってきたから、バスケットそのものをもう1回見直して、どんなことがあっても崩れないようなチームを作り直していかないといけないですね」


不思議なもので、たとえ初戦で敗れようとも「強豪校」の看板が下ろされるわけではありません。一度でも優勝をしたり、何年か続けて上位に進出をすると多くのファンの目には「それでもやってくれるはず」という勝手な思いが起こるものです。選手たちにとってはそれがプレッシャーになるのかもしれませんが、そのプレッシャーに打ち勝って、再び福岡第一が輝きを放ってくれることを期待します。そして井手口コーチの言葉にもあるように、「どんなことがあっても崩れないチーム」、Bコートの魔物にも屈しない強いチームになって戻ってきてくれることでしょう。


こんなときに頭をよぎるのは決まって『スラムダンク』(集英社・井上雄彦)の名言です。


「はいあがろう。“負けたことがある”というのが、いつか、大きな財産になる」


ありきたりですが、この言葉をこれから福岡第一を引っ張る1、2年生と、今日一番悔しい思いをした鵤選手ら3年生に贈ります。


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