勝敗を分かつもの――ジュニアオールスター2013終幕
2013年03月31日 12時30分
3日間に渡って繰り広げられた「ジュニアオールスター2013」は、男子が神奈川県選抜の、女子が愛知県選抜の優勝で幕を閉じた。両チームは全国の中学校の頂点に立つチームにふさわしい強さを持っていた。技術だけではない。体力も、集中力も、そしてチームとしての一体感も。でも、だからといって敗れたチームにそれらがなかったわけではない。ちょっとしたボタンの掛け違い、ちょっとした差が、男子の17点差、女子の22点差という簡単にはひっくり返せそうにない得点差につながっていくのである。
勝敗を分かつもの、それを言葉にすると、けっして難しいことではないように思えてくる。たとえば、女子決勝で愛知に敗れた千葉の白石 哲也コーチは「(愛知のゾーンプレスに)慣れるまでに時間がかかりすぎましたよね」と敗因を語る。男子決勝で神奈川に敗れた沖縄の金城睦邦コーチは「これまでの5試合はリバウンドをウチが制して勝ち上がってきただけに、決勝では高さで負けたなという感じがしました」と言う。ともに、敗因はわかっている、わかっているが、一度狂った歯車を元に戻して、なおかつ逆転することは簡単ではない、というわけである。そこにバスケットボールのおもしろさがある。
千葉の白石コーチが言った“ゾーンプレスへの対応”。千葉はそれを練習していなかったわけではない。事実、大会に入っても宮崎や大分などのゾーンプレスにしっかりと対応して、打ち破ってきているのである。 「ただ、愛知のゾーンプレスは独特なんですよ。粘っこい。九州のチームのゾーンプレスは力強さを感じるけど、愛知のそれは本当に粘っこい。ドリブルやパスで突破した次のところに必ず他の選手がきているし、本当に全員がよく動く。しなやかという感じさえします。本当にいい経験をさせていただきました」。
千葉でボール運びを任された#9 片野 星選手は「あんなゾーンプレスは初めて経験しました。やっぱり全国大会に出てくるチームは、嫌なところで手を出してきたり、うまいなって思いました」と驚きを隠さなかった。エースの#4 赤穂 ひまわり選手も――彼女はボール運びのとき、どちらかといえばパスを受ける側にいるのだけど、「抜いても抜いても、どんどん次の選手が出てきたり、パスをしてもカットされたりして、愛知のディフェンスは上手でした」と認めている。
結果として第1ピリオドの独特なゾーンプレスに面食らった19点差が大きく影響して負けてしまったが、立て直してきた第2ピリオド以降を見れば、両チームに点差ほどの大きな差がないことはわかる。同じようなレベルであっても、相手が想像しえないこと――自分たちにとっては当たり前のことでも、それをすることで大きな得点差が生まれる。それも中学バスケットのおもろしさといえる。
他方、男子は女子のそれとは異なり、序盤の好調さが結果として裏目に出たことになる。
男子の沖縄は#9 渡嘉敷 直樹選手(185cm)、#10 青木 亮選手(188cm)というツインタワーを擁し、それまでの試合でリバウンドを制して、勝ち上がってきた。2人のビッグマンを抱えているチームはまだまだ少ない。そこに沖縄の有利さはあったのだが、神奈川にも#12 前原 碧生選手(189cm)、#13 植松 義也選手(188cm)というツインタワーがいる。決勝の沖縄はリバウンドでの優位さを失った。大会最優秀選手に選ばれた渡嘉敷選手も、神奈川の高さにこれまでにないものを感じていたと言う。
「相手が大きくて戸惑っていたということはありました。自分たちも九州地方では大きいほうなんですけど、それに甘んじてしまって、ボックスアウトという基本的なことを忘れていたように思います」。
さらに金城コーチはつけ加える。
「通常は渡嘉敷が攻撃の要となって、青木がリバウンドを取ってシュートというチームなんですけど、今日は序盤に青木のミドルシュートがよく入っていたので、それがまた彼の気負いすぎた面を生んだのかもしれません。ちょっと無理をしたり、自分でやろうという気持ちが強すぎて…いい面もたくさんあったんですけど、結果としてそれが捻挫(ねんざ)につながってしまいました。青木が後半コートから出た分、なおさらリバウンドが取れなくなってしまいました」。
アクシデントとはいえ、チームを支えてきたツインタワーの一角を失ったことは沖縄にとっては大きな痛手である。後半、青木選手が抜けてから、彼らは明らかに失速、集中力を欠いてしまった。 金城コーチも「どのチームも一緒だと思いますけど、沖縄の場合はいったん崩れると、なかなか立て直すことができないメンタルの弱さがあり、それも後半出てしまったように思います」。
高さで優位に立てず、逆にビッグマンの離脱でさらなる劣勢に陥る。レベルが高くなればなるほど、試合は簡単に計算できるものではなくなるのである。
これら男女の決勝戦のなかから、それぞれ1つの局面を切り抜いて見ただけでも、彼ら、彼女ら中学生の伸びしろの大きさ、選手としてさらなる成長への期待感を持たずにはいられない。勝敗だけを見れば、勝ったのは神奈川と愛知の2チームだけだが、勝負はこれからも続く。負けたチームはもちろん、勝ったチームの選手も「勝って兜の緒を締めよ」という言葉があるとおり、さらなる努力をしなければ、次は敗者の側に回ることになる。大会前のコラムで竹内譲次選手が言っていたように、中学生のころは何かのきっかけがあれば変わることができる。ジュニアオールスターをきっかけにして、さらなる努力を重ねてもらいたい。
次の試合で勝敗を分かつもの――それはこれからの努力にかかっている。
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Good Lose ~次の勝利に向かって~
2013年03月29日 22時45分
ある作家がその著書にこんなことを書いていた――本当に強い勝負師は、「勝ち方」より「負け方」がうまい。うまい負け方、もしくは良い負けとは何だろう。さまざま考えられるが、次につながる負けはその代表例と言っていいだろう。
ジュニアオールスターは第2日目、負ければ即終わりのトーナメント戦で、女子の大分県選抜は1回戦で、群馬県選抜は2回戦で、ともに千葉県選抜に負けた。ベスト4に勝ち進んだ千葉県には、昨年のジュニアオールスター最優秀選手であり、今年度の女子U-16日本代表候補の#4 赤穂 ひまわり選手がいる。もちろん彼女だけのチームではないが、やはり彼女の存在感は誰よりも大きい。そんな赤穂選手がいるから負けたのだといえば、確かにその一面もある。そして、千葉の白石 哲也コーチも、彼女を頼りにしていることを隠さない。
しかし大分も群馬も、そんな赤穂選手を擁する千葉にまったくひるまなかった。負けても仕方がないというようなプレイも一切見せなかった。千葉に勝つために、背の小さな大分も群馬も、共にチームディフェンスで赤穂選手および千葉を守ろうとした。守ろうとしたが、赤穂選手にも、千葉にも勝てなかったわけである。
大分のエース、#4 赤木 里帆選手は言う。
「第3ピリオドまではディフェンスを頑張ることで張り合うことができたけど、第4ピリオドで離されたのは、相手のほうが上手だったから。やっぱり最後は高さで合わせてきて、それに対して自分たちはもうちょっとディフェンスが粘り強くできていたらよかったと思います」。
大分の瀬山 英則コーチもまた、高さでやられたことを認める。対策は練ってきたが、それでも届かなかった勝利と身長差。
「最後は高さにやられました。ちょっとずつ違うので…自分たちはブロックをしているつもりでいても、相手のほうが1つ上に手が出ているので、そこでファウルトラブルになってしまいました」。
それでも2人は――2人は同じ中学校の顧問と選手という間柄でもある――この敗戦で夏の「全国中学校バスケットボール大会」に向けた課題が見つかったという。
「惜しかったですね…でもこれが今の自分たちの力かもしれません。選手たちも満足していないので、これからレベルアップしてくれるでしょう(瀬山コーチ)」。
「ディフェンスでは常にカバーの位置に気をつけながら、相手のドライブがきても対応できるようにしなければいけないし、ボックスアウトもまだしっかりできていないので、リバウンドを取るためにもしっかり練習していきたいです(赤木選手)」。
また、決勝トーナメント2回戦で負けた群馬の千輝 敦志コーチは、選抜チームのコーチを引き受けるにあたって、「背の低いチームなので、個人の能力を短期間で上げるのではなく、チーム力で戦う」ことをテーマに挙げてきた。
そして、179cmのオールラウンダー・赤穂選手を守るために「1対1で勝てなければ、2人目、3人目…5人目まで、いや、もっといえばベンチまでというつもりで戦いました」と言う。
チームメイトに対して常に笑顔を見せ、それでいてチームトップの得点をたたき出す、司令塔の#11 山野井 美優選手も「とにかく必死で(赤穂選手を)止める」ことだけを考えていました。足でしっかりついていって、なるべくファウルをしないようにしました。それはうまくできたと思います」。
その言葉どおり、群馬はファウルトラブルに陥ることなく、最後まで主力がコートに立ち続けることができ、千葉を追い詰めたのである。
千輝コーチと山野井選手もまた、同じ中学校の顧問と選手の間柄だ。そんな2人が全中に向けた発言をしなかったのは、全国への道がとても険しいことに気づいているからもしれない。それでも千輝コーチが言った「(ジュニアオールスターでは)最高のチームができたと思います。いい大会でした」という言葉には、これをきっかけに挑戦していこうという気持ちが含まれていたに違いない。
ところで勝者はこのとき、どんなことを思っているのだろう。千葉県の#4 赤穂 ひまわり選手は言う。
「群馬戦は自分たちのペースになったと思ったら、相手にシュートを決められたり、リバウンドを取られたりして、逆に相手のペースになってしまい、離せるところで離せませんでした。試合の終わり方もあまりよくなかったので、明日に引きずらないようにしなければいけません。ともかく今日は勝ったので、勝ちは勝ちとして、明日の準決勝にしっかりとつなげていきたいです」。
そして、こう付け加える。
「さっき(試合終了後)群馬の子に『優勝してね』って言われたので、頑張ります!」
自分たちの思いを背負って戦ってくれる選手がいることも、負けた選手にとっては嬉しいものである。これもまた良い負け、Good Loseである。
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攻める男の流儀
2013年03月28日 22時50分
見ていてスカッとする、気持ちのいいチームだ。それは、男子の広島県選抜である。
最近の日本のバスケットは「ディフェンスからファストブレイク」が基本だと聞く。そのせいか、トップチームから中学校、ミニバスケットにいたるまで、多くのチームがチーム作りの根幹にディフェンスを置いている。それはけっして悪いことではなく、実際のところ背の小さい日本人が世界で戦おうと思えば、ディフェンスは最重要項目の、さらに一番手となる。
広島県選抜もディフェンスを軽視しているわけではないが、それよりは「もっとバスケットを楽しもう!」と、あえてオフェンス――具体的に言えばシュートにこだわりを持って、これまでチーム作りをしてきた。世の流れから逆行するかもしれないが、1つや2つ、そういったチームがあってもいい。またバスケットの初心者からすれば、シュートを決めるか否かほど、見ていてわかりやすいものはない。小田 実コーチは言う。
「けっして身体能力が高いわけではなく、身長だって低い子がたくさんいるチームです。だからシュートだけは…。この子たちを選んだときからずっと言い続けているのが、『とにかくシュートだけは、チャンスがあったら思い切って打って、勝負していこうじゃないか!』ということでした」。
自分たちの現実を受け入れ、それでも勝負に出ていく。小田コーチの言葉どおり、初戦の山梨戦は序盤からエンジン全開で勝負を挑み、結果として72得点を挙げている。2試合目の熊本戦こそ、勝てば決勝トーナメントに進める気負いか、それとも相手の勢いに気圧されたのか、シュートが決まらずに苦しい展開になったが、それでも終盤に本来の“攻め気”を取り戻したことで、勝利につなげている。59得点はいつもに比べると数字は少ないそうだが、それでも瞬間的な得点力は「攻めの広島」の面目躍如と言えよう。
その熊本戦、最後の最後でチームに勢いをつけたのが#4 柳川 幹也選手だった。広島市立井口中学校でも小田コーチの教えを受けていて、チームの中では小田コーチのバスケを誰よりも理解し、体現できるエースである。彼は昨年の「全国中学校バスケットボール大会」の予選リーグで、1試合51得点を挙げている。
「(終盤のシュートは)その直前にあったタイムアウトで、みんなから『ここは幹也しかおらん』って言われて、ボクも『ここで入れなきゃ男じゃない!』と思って自信をもって打ったら、入りました」。
「ここで入れなきゃ男じゃない」という発言がいい。51得点を取ったときとは異なり、広島県選抜はこの大会のためだけの、寄せ集めのチームである。それでも普段は敵同士のチームメイトの言葉に発奮し、結果を残すことで柳川選手はまたひとつ大きく成長したことになる。
明日からは、一発勝負となる決勝トーナメントが始まる。柳川選手は、そして広島県選抜は、どんな戦いぶり、どんな攻めっぷりを見せてくれるのか。
選手がそれぞれの成長に向かって“攻め続ける”バスケットは、見ていておもしろい。
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