Good Lose ~次の勝利に向かって~RSS
2013年03月29日 22時45分
ある作家がその著書にこんなことを書いていた――本当に強い勝負師は、「勝ち方」より「負け方」がうまい。うまい負け方、もしくは良い負けとは何だろう。さまざま考えられるが、次につながる負けはその代表例と言っていいだろう。
ジュニアオールスターは第2日目、負ければ即終わりのトーナメント戦で、女子の大分県選抜は1回戦で、群馬県選抜は2回戦で、ともに千葉県選抜に負けた。ベスト4に勝ち進んだ千葉県には、昨年のジュニアオールスター最優秀選手であり、今年度の女子U-16日本代表候補の#4 赤穂 ひまわり選手がいる。もちろん彼女だけのチームではないが、やはり彼女の存在感は誰よりも大きい。そんな赤穂選手がいるから負けたのだといえば、確かにその一面もある。そして、千葉の白石 哲也コーチも、彼女を頼りにしていることを隠さない。
しかし大分も群馬も、そんな赤穂選手を擁する千葉にまったくひるまなかった。負けても仕方がないというようなプレイも一切見せなかった。千葉に勝つために、背の小さな大分も群馬も、共にチームディフェンスで赤穂選手および千葉を守ろうとした。守ろうとしたが、赤穂選手にも、千葉にも勝てなかったわけである。
大分のエース、#4 赤木 里帆選手は言う。
「第3ピリオドまではディフェンスを頑張ることで張り合うことができたけど、第4ピリオドで離されたのは、相手のほうが上手だったから。やっぱり最後は高さで合わせてきて、それに対して自分たちはもうちょっとディフェンスが粘り強くできていたらよかったと思います」。
大分の瀬山 英則コーチもまた、高さでやられたことを認める。対策は練ってきたが、それでも届かなかった勝利と身長差。
「最後は高さにやられました。ちょっとずつ違うので…自分たちはブロックをしているつもりでいても、相手のほうが1つ上に手が出ているので、そこでファウルトラブルになってしまいました」。
それでも2人は――2人は同じ中学校の顧問と選手という間柄でもある――この敗戦で夏の「全国中学校バスケットボール大会」に向けた課題が見つかったという。
「惜しかったですね…でもこれが今の自分たちの力かもしれません。選手たちも満足していないので、これからレベルアップしてくれるでしょう(瀬山コーチ)」。
「ディフェンスでは常にカバーの位置に気をつけながら、相手のドライブがきても対応できるようにしなければいけないし、ボックスアウトもまだしっかりできていないので、リバウンドを取るためにもしっかり練習していきたいです(赤木選手)」。
また、決勝トーナメント2回戦で負けた群馬の千輝 敦志コーチは、選抜チームのコーチを引き受けるにあたって、「背の低いチームなので、個人の能力を短期間で上げるのではなく、チーム力で戦う」ことをテーマに挙げてきた。
そして、179cmのオールラウンダー・赤穂選手を守るために「1対1で勝てなければ、2人目、3人目…5人目まで、いや、もっといえばベンチまでというつもりで戦いました」と言う。
チームメイトに対して常に笑顔を見せ、それでいてチームトップの得点をたたき出す、司令塔の#11 山野井 美優選手も「とにかく必死で(赤穂選手を)止める」ことだけを考えていました。足でしっかりついていって、なるべくファウルをしないようにしました。それはうまくできたと思います」。
その言葉どおり、群馬はファウルトラブルに陥ることなく、最後まで主力がコートに立ち続けることができ、千葉を追い詰めたのである。
千輝コーチと山野井選手もまた、同じ中学校の顧問と選手の間柄だ。そんな2人が全中に向けた発言をしなかったのは、全国への道がとても険しいことに気づいているからもしれない。それでも千輝コーチが言った「(ジュニアオールスターでは)最高のチームができたと思います。いい大会でした」という言葉には、これをきっかけに挑戦していこうという気持ちが含まれていたに違いない。
ところで勝者はこのとき、どんなことを思っているのだろう。千葉県の#4 赤穂 ひまわり選手は言う。
「群馬戦は自分たちのペースになったと思ったら、相手にシュートを決められたり、リバウンドを取られたりして、逆に相手のペースになってしまい、離せるところで離せませんでした。試合の終わり方もあまりよくなかったので、明日に引きずらないようにしなければいけません。ともかく今日は勝ったので、勝ちは勝ちとして、明日の準決勝にしっかりとつなげていきたいです」。
そして、こう付け加える。
「さっき(試合終了後)群馬の子に『優勝してね』って言われたので、頑張ります!」
自分たちの思いを背負って戦ってくれる選手がいることも、負けた選手にとっては嬉しいものである。これもまた良い負け、Good Loseである。
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