【大会前特集(4)】竹内兄弟が示す「次への一歩」
2013年03月27日 17時21分
バスケットはいつも選手たちに大切なことを教えてくれる。努力すること、仲間を大事にして協力しあうこと、そして最後まで諦めないこと。その一方でそれらを一生懸命やっても、試合が終われば勝者と敗者にわかれてしまう。それもバスケットである。ただ結果として勝者、あるいは敗者になったとしても、それですべてが、大げさに言えば人生のすべてが決まるわけではないだろう。
いよいよ明日、3月28日(木)から始まる
「第44回全国ミニバスケットボール大会(以下、全国ミニバス大会)」と、
「第26回都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会2013(以下、ジュニアオールスター)」に出場する選手たちは、都道府県の予選や選考会を勝ち抜いた“勝者”である。だからこそ出場できる喜びを、コート上で存分に表してもらいたい。そして、「経験のスポーツ」と言われるバスケットであるからこそ、大会での一つひとつのプレイは、これからのバスケット生活、もしくは学生生活に生きてくるはずだ。この貴重な経験を当たり前と思わず、最後まで楽しんでプレイしてもらいたい。
では“敗者”にとっての「全国ミニバス大会」、「ジュニアオールスター」とは何だろう。都道府県の予選で敗れ、選考会で最終メンバーに残れなかった選手は、その先の道を閉ざされてしまうのか…いや、そんなことはない。確かに全国の舞台でプレイする経験は得られないが、それをきっかけに「もっとうまくなりたい」「次こそは全国大会に出てやる!」といった気持ちを持ち、さらに練習に励むことで、大会に出られなかった“差”を埋めることができる。それくらい小学生、中学生の、全国大会に「出られる選手」と「出られない選手」の差は小さいのだ。
「小中学生の時期は、何かきっかけがあればすごく伸びる時期です。そのためには、周りにいる仲間や指導者などがすごく重要になってくると思いますが、それでも最終的にそのきっかけをつかむのは本人次第。きっかけがあれば、何かが変わると思いますよ」。
そのように言うのは日本が誇るオールラウンダー、竹内 譲次選手(日立サンロッカーズ)だ。竹内 譲次選手は大学生のときに日本代表に入った逸材(いつざい)だが、実は全国ミニバス大会にも、ジュニアオールスターにも出場していない。
「あの頃の僕は、自分の実力がジュニアオールスターに選ばれるほどのレベルじゃないとわかっていました。だから出たいというより、次元の違う世界の話だなって思っていました。でも、いつかは全国大会に出てみたいと思ったから、高校は京都の洛南高校に決めました」。
そして、洛南高に進学したことが竹内 譲次選手の“きっかけ”となり、その後、日本代表への道を進んでいくことになる。
そんな竹内 譲次選手には双子の兄がいる。同じく大学生のときに日本代表入りしたセンターの竹内 公輔選手(トヨタ自動車アルバルク)だ。竹内 公輔選手もまた、全国ミニバス大会、ジュニアオールスターに出場していない。しかも2人の進学した洛南高は、全国でも有数のバスケット強豪校。当然、全国ミニバス大会やジュニアオールスターに出場した経験を持つ同級生や先輩たちがゴロゴロいる。彼らを見て、竹内 公輔選手はどう思っていたのだろう。
「バスケット専門誌に写真入りで出ていた人たちがいて、それをうらやましいと思ったことはありましたし、先輩たちも『あの人は中学の全国大会で準優勝したときのメンバーだ』という目で見ていました。でも、だからといって自分が劣(おと)っているというコンプレックスはなかったですね。いかに高校で頑張るかだと思っていましたから」。
最初にも書いたとおり、「全国ミニバス大会」と「ジュニアオールスター」に出場したか、しないかですべてが決まるわけではない。出場したことで満足をして、その後努力をしなかったり、仲間を大事にせず、協力しないで自分勝手なプレイをしていると、次のステージで全国大会に立つことはできない。たとえ全国大会に出ても、小中学生のときのような輝きを見せることはできないはずだ。逆に言えば、「全国ミニバス大会」や「ジュニアオールスター」に出場できなくても、その後も努力を重ねていけば、新しいチャンスは生まれてくる。竹内 公輔選手も、譲次選手も、そうして日本を代表する選手へと成長していったのだ。
このとき目標となるライバルを見つけると成長の度合いが大きくなるが、ライバルを見つけるときに注意することがあると、竹内 公輔選手は言う。
「ライバル意識を燃やすことは大切です。でも『全国大会に出た』とか『全国大会で活躍した選手』といった“肩書き”にライバル意識を持つのではなく、あくまでも現時点でのプレイに対してライバル意識を持つことが大切だと思います。たとえば自分がベンチメンバーなら、同じポジションで試合に出ている選手よりもうまくなるとか、肩書きではなく、プレイそのものに対してライバル意識を持ってもらいたいですね」。
予選で敗れ、選考会で敗れ、全国大会に出場できない選手は多い。むしろ、出場できる選手より、出られない選手のほうが多い。大切なのは、そこから何を感じ、どのように行動を起こすか、なのだ。そこで練習することも大切だが、同じ世代のトップクラスがどんなプレイをするのかを見て、知ることも上達への
「きっかけ」となり、ライバルを見つけることもできる。だからこそ、次の一歩を全国大会の会場に向かって踏み出してみよう。その次の一歩が、みんなの未来を変える一歩になるかもしれない。
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【大会前特集】トップコーチによる“盗み”のススメ
2013年03月22日 17時27分
人からモノを盗(ぬす)んだり、奪(うば)ったりすることは犯罪(はんざい)です。絶対にやってはいけません。 しかし、バスケットボールでは盗んでいいものがある。
その1つは「相手の持つボール」だ。ドリブルスティールやパスカットでボールを奪えば、自分たちの攻撃機会が増える。ボールはぜひ奪いたいものだ。またゴールも奪っていい。むしろ相手よりも多く奪わなければ、試合に負けてしまうため、奪わなければいけないと言った方がいいかもしれない。まだある。それは「うまい選手のうまいプレイ」だ。これを盗むことができたら、個人のレベルアップは間違いない。しかもこれはコートの中だけではなく、ベンチや観客席からでも見て盗むことができるという点で、誰にでもチャンスがあるターゲットだ。
今年1月に開催された「第79回皇后杯 全日本総合バスケットボール選手権大会」で、初優勝を果たしたトヨタ自動車 アンテロープスの後藤 敏博ヘッドコーチは言う。「必ずどこかのチームに『この選手はすごい!』と思える選手がいるものです。その選手の技を盗むようにゲームを見れば、おもしろく観戦することができます。バスケットは練習をするだけではなく、見て、それを盗んで、真似することが大切です」。他人のプレイをよく見て、真似(まね)をして、うまくなった選手たちが、トヨタ自動車をはじめとしたトップリーグのチームで活躍している。
「見て、盗め!」と言われても、一体どこを、どのように見ておくといいのだろう?その答えを後藤ヘッドコーチと同じく女子最高峰のリーグ、WJBLでヘッドコーチをしている3人が教えてくれた。
先日のWリーグファイナルで、見事5冠を達成したJXサンフラワーズの佐藤 清美ヘッドコーチは「自分と同じくらいの身長の選手を見ておくといいでしょう」と言う。あまりにも身長が違いすぎると、真似をするイメージが湧かないからだ。「練習をするだけだと目標が持てないことがあるので、同じような身長の選手のプレイを見て、『自分もあんなプレイをやってみたい』と目標を持つことがとても大切です」。
また、富士通 レッドウェーブを率いる藪内 夏美ヘッドコーチは、現役時代はポイントガードをつとめていただけあって、幅の広い視点でポイントを教えてくれた。「ボールを持っていない選手が、いかにボールを持っている選手の邪魔(じゃま)をしないかに注目してもらいたいですね。全国大会に出てくるチーム、選手がどのようにスペースを作って、ボールを持っている選手が動きやすくしているかを見ればいいと思います」。ボールのあるところに何人も味方が重なり合っているようでは、いいバスケットをすることはできない。ボールを持っている選手だけではなく、ボールを持っていない選手にも注目してみよう。
シャンソン化粧品 シャンソンVマジックの木村 功ヘッドコーチもまた、「優れた選手は必ずいいものを持っているから、それを見つけて自分に活かしてほしい」と言う。このとき、もう1つポイントをプラスすれば、できるだけ自分たちのコーチと一緒に見たほうがいい。「たとえばシュートのうまい選手がいたら、シュートが入ったか、入らなかったかだけを見るのではなく、ボールを放す瞬間のリリースがどうなっているかまで見られるといいですね。そのためにも指導者が『あの選手のここを見ておくといいよ』と細かい点までアドバイスできれば、子どもたちのバスケットを見る見方もより変わってくると思います」。
4人のヘッドコーチはみんな、「見て、盗んで、真似する」ことの重要性を教えてくれた。そして実際に真似をしてみると、大切なことがわかってくるはずだ。それは、これも4人のヘッドコーチが口をそろえて言っていたことだが、「小中学生のうちは、基本をしっかり身につけよう」ということだ。うまいプレイと基本はかけ離れたものだと思いがちだが、実はうまいプレイのできる選手は、たいてい基本の動きができている。
つまり、見て「うまい!」と思ったプレイは、基本練習の積み重ねのなかから生まれてきたプレイなのである。それを盗んで身につけるためには、基本練習とうまいプレイの真似をバランスよく繰り返すことだ。同世代のうまい選手だけではなく、日本を代表するようなトッププレイヤーたちもそうやってうまくなってきた。ぜひ小中学生にも「見て、盗んで、真似する」ことをがんばって、日本の、そして世界のトップを目指してみよう。
バスケットは、「見る」ことがとても重要なスポーツだ。でもただ見るのではなく、見て、その技を盗んで、自分のモノにしてみよう。バスケットのレベルアップに“盗み”は欠かせない。
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【大会前特集】ライバルたちの今
2013年03月16日 20時17分
あれから2年――東日本大震災は多くの被害をもたらし、多くの被災者を生んだ。今なお安易な慰めの言葉は見つからないが、それでも1つ言えることは、残された私たちは力の限り生きなくてはいけないということ。そのことを胸に、今年度の
「全国ミニバスケットボール大会(以下、全国ミニバス)」も
「都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会(以下、ジュニアオールスター)」も
「東日本大震災」被災地復興支援を頭に掲げた大会になっている。
失われた命のなかには「未来のライバル」となる選手たちも含まれていたに違いない。その選手たちの分まで、と書くとやや重たい気持ちになってしまうが、バスケットができる喜びを存分にコートの上で表現してもらいたい。それこそが亡くなられた仲間たちに対する最高の鎮魂になるはずだ。
実際、すでに未来に向かってチャレンジをしている同世代の仲間たちがいる。彼ら、彼女らは今年の「ジュニアオールスター」にも出場する、言わば「ライバル」だ。そんなライバルが今、どんなことを考えているかを知っておくことは、同世代の選手たちにとってプラスになるはずだ。「あの子はこんなことを思っているから、こんなプレイができるのか…私も真似してみよう!」と。
平成24年度から当協会で開催した「ジュニアエリートアカデミー(ビッグマン)」に1年間参加した22人のうち、今年のジュニアオールスターに出場する選手に話を聞いてみたところ、どの選手も「キャンプ」での成長を実感しているようだ。
広島県選抜の原田 麗音選手は「選ばれた時は、本当に僕でいいのかなという気持ちでした。でも広島県選抜は3Pシュートなど外角シュートがうまい選手が多いので、だからこそリバウンドが大事になります。僕はチームの中で一番大きいので、落ちたシュートを全部獲るつもりでリバウンドを頑張りたいです。また、オフェンスではスクリーンをうまく使って、シューターに気持ちよくシュートを打たせられる動きをしたいです」と語り、「全国では僕のことを知らない人ばかりですから、広島にはこういう選手がいるぞ、と知らしめるような活躍をしたいです」と意気込んでいる。
宮城県選抜の畠澤 諭選手は、キャンプでの手応えをジュニアオールスターでも活かしたいと言っている。「いろんなスキルや体幹トレーニングを学んできましたが、このキャンプで教わったことをジュニアールスターでひとつでも出せるようにしたいです。特にメンタル面が大きく変わったと思います。最初は闘争心もなく、みんなで話し合って行動することも苦手で、ただ単に試合に出ているだけという気持ちでした。でもメンタルトレーニングの先生に『試合を楽しんでいこう』と仰っていただき、キャンプも楽しんで取り組もうと思えるようになりました」。気持ちが変われば、プレイも変わってくる。畠澤選手のように楽しんでプレイをすれば、勝ち負けだけではない、いい結果が見えてくるはずだ。
神奈川県選抜の竹藤 裕選手は、今大会参加選手の中で最長身の199センチ。しかし、キャンプに参加するまでは中学でバスケットを辞めようと考えていたという。「最初は将来のことなど全然考えていませんでしたが、キャンプに参加して、練習してきたことで大きな将来の夢を持てるようになりました。将来の夢は日本代表選手になることです」と高校でもバスケットを続ける意志を表明してくれた。目の前の練習を一生懸命に行うことは何よりも大切なことだが、それでも小中学生にはまだまだ知らないバスケットの楽しさがある。奥深さといってもいい。竹藤選手はキャンプでそのことに気がついたが、より多くの楽しさが「全国ミニバス」や「ジュニアオールスター」の会場にも存在している。それを見つけるためにも、ぜひ会場に足を踏み入れてみよう。
男子だけではない。女子はさらに一歩先を行っていて、2人の中学2年生が「平成24年度バスケットボール女子U-16日本代表チーム」の候補選手に選ばれている。
その1人、千葉県選抜の赤穂 ひまわり選手は、昨年度のジュニアオールスターMVP。その赤穂選手が昨年「点数が取れなかった」というのが、もう1人のU-16候補選手、愛知県選抜の馬瓜 ステファニー選手だ。2人はすでにライバル関係にあり、どちらも「対戦したら負けたくない!」と火花を散らしている。
赤穂選手はジュニアオールスターの難しさをこう言っている。「普段とチームが違うので、それぞれバスケットの約束事が違っていて、1on1から仕掛ける人もいれば、スクリーンから始まる人もいて、最初はかみ合わない部分もあります。でもジュニアオールスターに選ばれる選手はみんなうまいので、何とか合わせる努力をしていき、実際に試合で息のあったプレイを出せた時はうれしいです」。赤穂選手のその言葉に対して、ライバルの馬瓜選手がこう引き継ぐ。「大会の最初の頃にできなかったことも、試合をしていくにつれてできるようになっていきます。みんなの成長が早く、それはすごいなと思いました」。
この2人の言葉からもわかるように、ライバルは敵対するだけではなく、お互いを認め合い、補っていくことでさらに力をつけていく。中学生だけではない。「全国ミニバス」に出る小学生もまた、先輩たちの言葉を参考によりよいライバルを見つけ、一緒に切磋琢磨(せっさたくま)していこう。相手のよさを見つけ、認めることで、たった3日間しかない大会がよりよい成長につながっていく。そんなライバルをたくさん見つけてみよう!
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