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女子日本代表:パリ2024オリンピックへ向けた基本方針「40分間を通してコートに立つ5人全員が連動して発揮できることこそが、日本の特別な強み」恩塚亨ヘッドコーチ

2024年7月1日

恩塚亨ヘッドコーチが積み上げてきたコンセプトである「走り勝つシューター軍団」

パリ2024オリンピックで金メダルを目指す女子日本代表

 パリ2024オリンピックへ出場する12名の内定選手を発表した女子日本代表。2016年リオ大会では準々決勝で、銀メダルに輝いた前回大会はラストゲームのファイナルでいずれもアメリカに敗れました。金メダルを目指すためには乗り越えなければならない相手であり、今回は開幕戦から相まみえます。東京2020オリンピックからバトンを受けた恩塚亨ヘッドコーチは日本の強みを最大化し、最適解を見つけて強豪に挑む強化を進めてきました。1ヶ月後に迫るアメリカとの開幕戦へ向け、女子日本代表の基本方針を恩塚ヘッドコーチが説明した内容を紹介します。

■停滞することなくチームの強みを発揮、個人の創造性も生かされる「スクリプト」

 東京2020オリンピックでは、「スペシャリスト」「役割を遂行する力」で銀メダル獲得の素晴らしい結果をもたらせました。私が就任時に課されたミッションは、さらに何を上積みして行くかであり、そのためにもスペシャリストが「アベレージ以上のスキルを発揮」し、役割を遂行する力に加えて「自ら合理的に判断できる力」へと昇華させることを目指してスタートしました。この2つの力を求めて来た結果、「自立した自己効力感の高い選手」が最高のパフォーマンスを発揮することが、最近の強化試合でも見られてきています。新しいバスケ界のモデルとなると個人的には思っています。

 2021年〜22年は、チームと個人の力のベースとなるキャパシティを広げることに専念し、スキルアップと原則の遂行にフォーカスしてきました。しかし、そこを高めても、外部環境の変化によって追われる立場として、日本の強みに対する妨害が強くなりました。また、近年のバスケはよりフィジカルな戦いになり、そこにうまく対応できずに日本の強みを出し切ることが難しくなる課題に向き合わなければならなかったです。

 2022年FIBA女子ワールドカップ後、選手たちのキャパシティを広げることは継続して目指しつつ、今度は相手の妨害によるタフな環境中でも日本の強みを出し切ることにフォーカスし、トレーニングしています。「日本の強み封じを乗り越える」「日本の強みを消すフィジカルなプレーに対しても出し切る」ようにするため、コーチングスタッフとともに分析し、通用することとしないことを突き詰めてきました。その結果、妨害やフィジカルなプレーに対して、それを上回る「スクリプト(台本)」を作ってチームにシステムを導入し、スキルアップを目指しています。スクリプトとなるプレーを選手たちには丸暗記し、無意識に発揮できるように求めています。迷うようであれば台本どおりにプレーし、もしそれよりも良い手があれば選手自身のアドリブで良いと伝えています。その結果、停滞することなくチームの強みを発揮でき、個人の創造性も生かすことができ、この両方を目指しています。

 日本代表の強みとは何かと言えば、「チームプレーにコミットできる選手たちが、素早く動けて、シュート力があり、最後までしつこく戦い抜けること」です。この強みを最初から最後まで40分間を通して、コートに立つ5人全員が連動して発揮できることこそが、日本の特別な強みです。相手とは違う良さを伸ばして発揮できるようにチーム作りをしています。

【日本の特別な強み】
1)素早く動ける:5人が足を使って戦える
2)シュート力ある:5人が3ポイントシュートを打てる
3)チームプレーへのコミット&しつこくやり抜ける:5人で連続性を発揮し続けられる

日本代表のチームコンセプト『走り勝つシューター軍団』

 アジリティ高く仕掛けながら、日本の特別な強みである3つを揃えることではじめて自分たちの土俵で戦えるようになります。特別な強みを最大限機能させるためにも、コンセプトに沿った戦いが重要です。相手の妨害やカオスを乗り越えるための対応策は千差万別ですが、コンセプトに沿って自分たちの強みを発揮し続け、「走り勝つシューター軍団」らしく課題を乗り越えることを目指しています。これまで積み上げてきた強化コンセプトを、残りの1ヶ月でさらに磨きをかけて、パリ2024オリンピックへ臨みます。

【コンセプトの積み上げ経緯】
[2021]世界一のアジリティの追求:原則発揮の敏捷性
[2022]カウンターバスケットボール:規律と即興の追求
[2023]システムの追求:強みを出す+妨害を超える
[2024]走り勝つシューター軍団:妨害に対しても強みで超える

■勝ちから逆算して選んだワールドクラスの12人

 コンセプトである「走り勝つシューター軍団」を高水準で表現でき、日本の特別な強みの3つの要素を兼ね備えた選手を考慮し、最終的に選考をしました。12人、誰が出ても仕事ができる、日本の強みをぶつけ続けられることは、16人で臨んだ先日のオーストラリアとの強化試合でも発揮してくれました。16人全員が「走り勝つシューター軍団」としてプレーできていたのは、見ていただいたとおりです。だからこそ、選考は非常に難しかったです。選手たちには、「勝利から逆算して選考を行う」と伝えました。人生を賭けて挑む選手たちに対して、それが誠実な向き合い方だと思ったからです。年齢も実績も重視していません。勝ちから逆算し,あらゆる状況を想定して必要な選手に「力を貸して欲しい」とお願いしました。いずれもワールドクラスの強みを持った選手たちです。

吉田 亜沙美:素晴らしいパス能力とリーダーシップ
髙田 真希:バスケIQが高く、3ポイントシュートが打てるセンター。大きな相手でも一人で守り切れるポストディフェンス
町田 瑠唯:パスはもちろん、ボールマンディフェンスも非常にレベルが高く,相手をシャットアウト
宮澤 夕貴:ビッグマンで3ポイントシュートを決める力があり、勝負強い。オーストラリア戦でもチャンスを見つけて3ポイントシュートを沈めた力がある
本橋 菜子:バスケIQが高く、チャンスを見つける嗅覚が素晴らしい。OQTでもチームに良い影響を与えてくれる選手
林 咲希:世界一のシューター。キャプテンシーも素晴らしく、チームの良いエネルギーを生み出す源
馬瓜 エブリン:ドライブと3ポイントシュートが大きな武器。チームを鼓舞する大きなエネルギーの持ち主
宮崎 早織:世界一のスピード。フルコートディフェンスは日本の大きな力
赤穂 ひまわり:リバウンド力が高く、複数のポジションができるオールラウンダー
馬瓜 ステファニー:世界を相手に1on1で打開できる能力を備えたオールラウンダー
山本 麻衣:スコアリング能力は世界トップクラス。特にプルアップやディープスリーは日本の大きな武器
東藤 なな子:複数のポジションをカバーできるオールラウンダー。バスケIQの高さでチームに相乗効果を与えてくれる

■第33回オリンピック競技大会 (2024/パリ)
日程:2024年7月26日(金)~8月11日(日)/バスケットボール競技:7月27日(土)~8月11日(日)
会場:ベルシー・アリーナ、スタッド・ピエール・モーロワ
参加国:男女各12か国
【グループA】セルビア(10位)スペイン(4位)中国(2位)プエルトリコ(11位)
【グループB】カナダ(5位)ナイジェリア(12位)オーストラリア(3位)フランス(7位)
【グループC】日本(9位)ドイツ(19位)アメリカ(1位)ベルギー(6位)
※国名の下のカッコ内は2024年2月11日現在のFIBAランキング
※女子予選ラウンドは2024年7月27日~8月5日、準々決勝は8月7日、準決勝は8月9日、3位決定戦と決勝戦は8月11日に開催予定