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2019年度全国バスケットボールコーチクリニック 開催報告
2019年8月24日
法政二高のデモンストレーターに指導するトミー・ロイド氏 (写真中央)
アリク・シベックコーチと通訳の佐々木クリス氏
2019 年 8 月 3 日 (土) ~ 4 日 (日) の 2 日間にわたり、法政大学第二中・高等学校にて、全国バスケットボールコーチクリニックが開催され、8 月 3 日 (土) には 344 名、8 月 4 日 (日) には 405 名の方が参加されました。
開催に先立って東野智弥技術委員長から「2020 年以降、バスケットボール界がさらなる発展を遂げる、よりよい世界を構築していくためには、コーチの研鑽が欠かせません」と強調されたように、本取り組みは「指導者の資質向上を目指す」・「指導者に研鑽の機会を提供する」ことを主な目的としています。これまでにも、世界各国で実績のあるコーチを招いてクリニックを実施しており、継続的な取り組みとなっています。
本年は、八村塁選手が在籍したゴンザカ大学でアシスタントコーチを務めるトミー・ロイド氏、欧州各国のプロリーグ等で指導実績のあるアリク・シベック氏を講師に迎え、会場校でもある法政大学第二高等学校男子バスケットボール部の選手をデモンストレーターとして 2 日間で計 4 コマのクリニックが実施されました。
○ 8 月 3 日 (土)
講師:トミー・ロイド (Tommy Lloyd) 氏
Rui’s Story & Plan Player Development Concepts
(八村塁選手のゴンザガ大学での成長過程と個を育成するための考え方)
冒頭で「八村選手と共に過ごした日々は、私にとっても素晴らしい旅路でした。今、彼が日本の若い世代を虜にし、イマジネーションを刺激していることを大変誇りに思っています」と前置きとしたうえで、「ハイライトシーンで彼のプレーを見られる方も多いと思います。ですが、豪快なプレーに潜む細かな技術や考え方がフォーカスされることは多くありません。また、もちろん、最初から全てのプレーをできたわけではありません。今日は、プレーの細部や、歩みをお伝えすることで、日本のバスケットボールの水準を上げるお手伝いができたら光栄です」と抱負を述べてクリニックはスタート。
1 コマ目は「シュート、パス、ドライブ及びドライブ後のシュート」を、2 コマ目は「インサイドでのポジション取りに必要なスキル、ゴール下でのフィニッシュ」を主たるテーマとして、実際に八村塁選手が行っていた練習が紹介されていきました。
両クリニックで共通して強調されたことは、コーチが明確な指針、計画性、高い基準を持つことの重要性です。
各練習ドリルは、常にチームコンセプトを反映した内容となっており、習熟レベルに応じて段階的なステップが用意されています。各ドリルで提示されるプレーを習得することで、選手はゲーム中に求められるチーム戦術を遂行できる基礎を習得できるように工夫されています。また、基本的には、一長一短で習得できる内容ではなく、5 分、10 分単位で、毎回の練習で継続して取り組むことを想定したドリルの設計となっており、コーチ側で明確な練習計画が存在していることも紹介されました。
プレーについて一貫して強調されたことは、コンタクトから逃げない心構えの重要性です。ドライブ、インサイドでのポジション争いの両方で、オフェンス側として獲得したいエリアを明確に提示。有利なポジションを確保する過程で発生するコンタクトに勝利するために、姿勢、身体の位置、タイミング、そして相手に屈しない闘争心の重要性が指導されました。また、トミー・ロイド氏は、「選手の成長の足かせになっているのは、コーチが持つスタンダードの質。そして、そのスタンダードを下げてはいけない」と強調。デモンストレーターを務めた選手には、正しいタイミング、正しい姿勢でポジションを奪うプレーを要求。プレーを重ねる中で、激しいポジション争いが見られるようになりました。
また、トミー・ロイド氏は、「素晴らしい選手は想像性が豊かである」と優れた選手に共通する特性を語ります。コーチとしても、それを阻害しないこと、及び、想像性を刺激し、主体的な取り組みを手助けすることを意識されているようです。八村選手とは「試合の映像を見て、自分がマスターしたいムーブを 2 つ、3 つ決めてきてくれ。次の練習からそれを一緒に練習しよう」というやり取りがあったことも紹介されました。
冒頭、「豪快なハイライトシーンの裏側に潜む細部を伝えたい」と語っていた通り、細かなスキルや、習得の過程が惜しみなく紹介されました。受講者にとっては、プレーの観察や分析にヒントとなる考え方を知れ、イマジネーションを膨らませる機会となりました。
○ 8 月 4 日 (日) 講師:アリク・シベック (Arik Shivek) 氏
「Transition defense drills」
(トランジションディフェンスのドリル)
アリク・シベック氏は、育成世代からナショナルチームまで幅広いカテゴリーでの指導経験の持ち主です。「カテゴリーや競技レベルにかかわらず、自分たちよりも身体能力やサイズに勝る強いチームとの試合で勝機を高めるため、ディフェンスリバウンドとトランジションディフェンスは欠かすことができない要素です」と明言。その意義や重要性を語ります。同時に、「レイアップシュートでは、何種類ものステップワークを練習するのに、トランジションディフェンスで必要な個人スキル、チームファンダメンタルを指導するコーチは少ない」と、十分に指導されているケースが少ないことに警鐘を鳴らします。
アリク・シベック氏は、「トランジションディフェンスでは、ゴール下での 2 点ショットだけではなく、トランジションでの 3 ポイントシュートまで防ぐことが目標です」と掲げ、基本的なコンセプトを提示した後に、段階的なドリルを実施しました。
2 人一組で行われるシンプルなレイアップドリルの中にトランジションディフェンスの要素を加えた内容や、実戦で必要になる要素を数多く取り込んだ複合的なドリルを実施。各ドリルでは、身体の向き、目線、足の運びまで非常にきめ細かく指導されました。
「Offense 4 out 1 in- from all kinds of sets –men & zone」
(様々なセットからの 4 アウト 1 インのオフェンス)
冒頭に「今の時代、インターネットの動画を通じて数多くのセットプレーを学ぶことができます。しかし、細部の指導の重要性や、その導入過程を知れることは少ないです。その部分を強調したいと思います」とコメントし、クリニックがスタート。
4 アウト 1 インのスペーシングで必要となるアウトサイド同士の連携や、アウトサイドとインサイドとの連携について、基本的な合わせの動きや、判断基準を指導。その後、スペーシングの状況判断や、ゲームで必要となるパススキルまでを練習ドリルの中に織り込みながら、基本的な動きから、応用系まで幅広く指導されました。
アリク・シベック氏は「ゲーム中、選手が過ごす時間のほとんどはボールを持たないプレーです。私見では、練習の 7 割はボールの扱いを中心とした練習ドリルが行われます。しかし、ボールを持たない時間のプレーを指導するのはコーチの責任です」とドリルの途中で語りました。その言葉通り、各練習ドリルでは、ボールを持たない選手にも判断力を要求する内容で構成されており、選手にとっても、ボールを持っていない際に必要となるスキルや考え方を学べるように設計されていました。
*****
戦術やスキル以外にも、各コーチからは、参加者に対して様々なメッセージが紹介されました。トミー・ロイド氏は、渡米後から現在に至るまでの時間の中、八村塁選手が向き合ってきた壁や、乗り越えてきた状況を、当時のエピソードと共に紹介。
「現代社会は、集中力を削ぐような誘惑に溢れています。しかし、明確な意思を持ち、規律を持って取り組めば、信じられない場所に辿り着くことが出来ます。八村選手の活躍の背景に、勤勉に取り組んだ日々があることを改めて知って欲しいです。日本のバスケットボールの発展の心から願っています」とメッセージが送られました。
アリク・シベック氏は、フルコートを利用して行われ、スペーシング、ドライブ、パス、そしてコンディショニングの要素を織り込んだ効率の良いドリルを紹介した際に「この仕組みを使って、自分のチームで必要となるスペーシングのドリルを何種類作れますか? 私であれば、この他に 25 種類のドリルを作れます」と述べました。上記以外にも、随所に、情報をインプットするだけでは不十分であること、それを基に、自チームの競技レベルや課題に応じて、選手の成長に適したアイディアを考案し続けていくことの重要性を強調されました。
当協会では、これからも日本のバスケットボール指導者の資質と指導力の向上につながる、指導者養成事業を展開していきたいと考えております。今後とも皆様のご理解・ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。